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第一経理ニュース

随想 No.32

映画の楽しみ(3)

スタビライザー株式会社  代表取締役 阿部敏夫

 

 池袋駅東口の池袋東急はいい映画館である。何より明治通りに面し駅から近いのが良い。この映画館はビルの7階にあってポスターを見てから最上階に登る。二つあるエレベーターの道路側に乗れば約5秒で到達する。シースルーの眺めが心地よい。そして客席数が多くゆったりしている。シニアの資格を得て最初に入ったのがこの映画館である。当然、年令を証明する免許証でもと言われたのを今でも覚えている。それなのに最近では、どの映画館でも証明を求められることはない。これは喜んでいいのだろうか。内心おだやかではない。最近ではシネコンが多くなって全席指定になりフラリと入館しずらくなった。それなのに七月八日、入替えなしの全席自由席で観た。「マイティ・ソー」である。面白かった。ストーリーは単純で途中からみても解り易い。宇宙には地球以外にも生命体があって乱暴者の長男を偉大なる王様(アンソニー・ホプキンス)が地球に追放する。宇宙の研究者達と出逢って家族愛に目覚める素朴なお話し。主役のクリス・ヘムワーズの肉体美が何ともいい。シュワルツネッガーの初期作品を想い出させる。

 アメコミで人気の作品だという。この話しは北欧の神話が下敷きにあって、神様の住む「アスガルド」の勇者、ソーの成長が対立する戦士と比較しながら描かれる。ナタリーポートマンや浅野忠信の役柄、特に後者について、存在意義が充分とはいえない。知名度の高い俳優は「ハンニバル」「羊たちの沈黙」のアンソニー・ホプキンスのみ。ケネス・ブラナー監督・アメリカの最新作。

 それに較べると、その前に観た「八日目の蝉」は芸術性が高い。いわゆる、いい映画なのである。人気作家、角田光代の原作を成島出が監督した。長い年月を地中で過ごしても一週間しか生きられない蝉が八日目まで生き残ってしまう。文学的題名とは違って幼児誘拐の不条理が切なく必然性をもって写しだされる。本来、重いテーマで親子の情が、この形で表現されるところが時代性、現代そのものなのだろう。かつて三益愛子の母ものシリーズは、生みの親、育ての親、義理をのっぴきならない宿命として現実に迫ったのであった。

 今は違う。井上真央、永作博美の役柄はストイックなまでに現実そのままに自然である。或る種のドキュメンタリー作品と言えなくもない。自分のこんなにまで優しく素敵な母親が記憶の定まらない時機の人さらいであった事実を、つきつけられて声もないとは、この事であろう。疑問が少しづつほどけていくミステリー。

 昨年の名作「悪人」。深津絵里、妻夫木聡、柄本明の演技が吉田修一の原作を超えたのかと思わせる。樹木希林のしずかな存在感が灯台でのシーンをあざやかに支えた。深津絵里が二○一一年のアカデミー主演女優賞を得た作品である。「八日目の蝉」はこの作品を想い出させるのだ。それは劇的なシーンの連続によってではなく、普通の生活者の視点で各ショットがつづられているからであろう。

 自分の子として育てながら逃亡を続けるなかで小豆島の穏やかなシーン・とりわけ段々畑に灯る提灯の美しさは心に染みて薄暗い闇夜に優しさを継げる。おそらく高峰秀子の「二十四の瞳」を思い起させる。それは監督木下恵介が描写した小豆島以来である。この島をあつかえばどうしても叙情は静謐に、そして感動は心の奥深く沈み込む。

 芸術性の高い映画と娯楽性に重点を置いた作品。どちらも映画は面白い。とりわけ暑い夏には。