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第一経理ニュース

随想 No.34

映画の楽しみ(4)



スタビライザー株式会社 代表取締役 阿部 敏夫

 秋は映画と共に始まった。ロマン・ポランスキー監督の「ゴースト・ライター」である。

 九月の初頭、開始時間に合わせて有楽町の映画館に足を運んだ。この映画で、あらかじめ識っていたのは監督の名前だけである。それが面白い。息をひそめさせると言ってよい。元首相の自叙伝執筆を依頼された無名の若い作家が、取材中に虎の尾を踏んでしまい闇に葬られる筋書。

 ミステリーの名監督アルフレッド・ヒチコックは誰でもご存知の筈。「北北西に進路をとれ」や「暗くなるまで待って」を撮って記憶に残る。ヒチコックの映画を暗く粘液質に置きかえたと言えば解り易いだろうか。ポランスキーのデリカシーが雨の多い随所にみられる。元首相夫人とライターの唐突とも思える寝室の場面が、終わってみれば、必然性があってのこととゆっくり感動が心を満たす。何よりも面白い。今年有数の映画と言ってもよいのではなかろうか。シヤロン・テート事件で影を引きずる監督が本格派の映画を撮れるとは思ってもいなかった。007で活躍したピアーズ・ブロスナンが元首相役で笑顔をふりまく。

 そしてなお、東京新聞の9月5日号、読売新聞の朝刊9月6日号に英国秘密情報局(MI6)や米国中央情報局(CIA)が対象こそ違え、カダフィ政権下のリビアでテロ容疑者が過酷な取り調べを受けるのを承知で引き渡した。CIA、MI6は深く関与したと、まるでこの映画そっくりの報道がなされた。

 事実は小説よりも奇なりとは、まるでこのことではなかったのか。観終わったあとにゾクリと背すじが寒くなる映画。

 平日に2本建ての映画を観るには時間の配分に努力が必要だ。去る9月2日新文芸座(池袋)で若尾文子の作品2本を観た。

 「氷点」「雁」である。2作とも若尾文子の魅力が充分に伝わる作品。永田雅一の映画会社、大映が存在していた時代の作品である、いずれも1966年の話題作。

 「氷点」は三浦綾子の小説を映画化したもの。話題性は現在にも通じ「八日目の蝉」に似た部分がある。小さい娘を殺害された病院長の妻が若尾文子の役どころ。上品で華やかなだけでない。北海道旭川が舞台。降る雪が女心の寂しさを誘ってこのうえなく切ない。安田道代、山本圭、津川雅彦、森光子が共演。いずれもセリフの明解さが際立った。

 「雁」は一時代を彷彿とさせる。東京上野の池の端で囲われる妾の役が若尾文子。少ない登場人物と狭い行動半径は、まるでお芝居のようだ。50年前はこの映画一作で世相を表現できたのである。富める者と貧しい者。それは宿命として人生を決めつける結果にもなった。森鴎外の原作を池広一夫が監督。山本学、小沢栄太郎、水戸光子の共演を得てその時代を表現。若尾文子の美しさが時代背景を牽引する。歳月はあっと言う間に過ぎ去る。私の高校生時代。水辺で彼女のスカートが膝までメクレるシーンで大騒ぎした映画があった。

 それにしても貴方の周りには若尾文子似の女性は居ないのだろうか。例えば若い時にはまるで姿まで同じようだったとか。

 NHK朝のテレビドラマ「おひさま」やソフトバンクのコマーシャルの白い犬の家族だけではない。現在でも艶やかな声と美貌は50年前、若者達の心を捕えて離さなかったのである。

 二本とも白黒の画面だが上映開始と共に違和感は消えスクリーンに引き込まれていく。特に雁のようなテーマは現代には、なじめないだろう。DVDで再発見するのも手だが誰にも語らず、気に入ったシーンだけを瓶詰めにして、蓋をあける日が来るのを待つと言うのはどうだろうか。すると青春は褪せることなく保存できるのだが。