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第一経理ニュース

新春経済セミナー

どうなる日本の政治と経済 ―中小企業の活路はどこに―


 




神戸大学発達科学部教授
二宮 厚美

 平成24年2月3日 第一経理一・一会、協同組合DDK共催による新春経済セミナーが行われ、今回は神戸大学発達科学部教授 二宮厚美氏を迎えご講演を頂きました。その講演録をお届け致します。

 

はじめに 

 最初に結論からお話ししますと、10年後を目指して、日本経済は大企業抜きでやっていかなければいけません。大企業は日本経済の中枢ではあるのですが、雇用吸収力は殆どなく、儲かったお金を新しい投資に使うことも無い。大企業は高い税率のままならば日本を出て行くぞ、と脅しをかけていますが、私は出て行くのならもう出て行け、と思うのです。

 このままで行くと、10年後には大企業がいなくなって日本経済は衰退すると思います。それならば今から大企業には依存せず、中小企業だけでやっていく、という覚悟をもって日本経済の再建に取り組まなければいけません。そして2012年をその元年にしていかなければいけません。そのチャンスが今、訪れようとしています。

 

 

1 崩壊期に突入した民主党政権

 

21世紀の「失われた10年」を取り戻す元年

 

 野田政権は、2001年4月に発足した小泉政権と全く同じ地点に立っており、今まさしく「失われた10年」になろうとしています。野田政権を倒し、2012年を10年先を考える元年とするためには、この3~4月に日本の世論がどのぐらい盛り上がっているのかによって決まると思います。なぜかと言うと、野田首相は政治生命を賭けて3月末までに消費税増税法案を閣議決定する、という段取りでハラを決めています。この時、国民がすかさず野田政権にNo!を突き付け、4月から5月に解散総選挙に持ち込むことに成功すれば、民主党政権が敗北することは間違いないし、自民党も今の状況では伸びる可能性は殆どない。2012年は「失われた10年」を取り戻すことができるのだと思います。

 ところが3~4月決戦に失敗するとどういうことになるか。

 次に解散総選挙になるチャンスは、消費税増税、TPPへの加入、原発再稼動も決めた後の6月末から7月に、話し合いによる解散とな るでしょう。こうなってしまうと、中小企業がいくら頑張っても、日本経済の再建は難しい。だから私はこの3~4月で決めるというのが日本社会、日本国民の歴史的課題であり義務だと思っています。そして中小企業の活路をその方向で考えていかねばなりません。

 

 

2 新自由主義的蓄積の悪循環に入った世界と日本

 

1・新自由主義的蓄積の基本パターン

 

 過去10年続いた世界経済危機の構造を見てみると、簡単に10年後の見通しがわかります。私の出した結論は、「グローバル経済の中の新自由主義的蓄積は、悪循環の道に入りこむ」、ということです。これはどういうことか。

 日本も欧米も、新自由主義的な構造改革が席巻しました。この構造改革が進むと、野放しの自由市場において弱肉強食の競争となりますから、労働市場であれ、金融市場であれ、貧困格差社会が避けられなくなります。

 

2・新自由主義的蓄積のもとでの欧米と日本

 

①アメリカ型

 アメリカではウォール街が躍進をとげ、富が蓄積され、あとの大衆は貧困化の一途をたどりました。その中でのアメリカのやりかたは、「借金して消費する」という内需拡大策でした。サブプライムローンで住宅証券バブルを引き起こし、2008年のリーマンショックまでのアメリカは、まるで好景気であるかのような状況がずっと続いてきました。

 しかし、外需は日本製品や中国製品の輸出で奪われてしまい、バブルが崩壊した後、内需は冷え込み、国内経済は盛り上がらない。景気回復がバブル崩壊の一年後から進み始めましたが、調べてみるとなんのことはない、また借金による消費です。これは長く続くはずはありませんから、またどこかで冷え込むことは必至という状況です。

 

②ヨーロッパ型

 ヨーロッパはどうか。ユーロ圏においてはユーロという統一通貨ですから、同じ国内の市場と考えていい。そこで自由競争が起こると、自動車産業ではドイツが勝つのは当たり前です。そういう中で、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの製造業は無残にやられたのです。

 ところがその過程で何が起こったか。フランスとスイスの金融機関にEU中の過剰資金が集中し、先ほどの5カ国の後進国からしてみれば同じ金利で金をたくさん借りられる、という極めて良い状況となった。それがアイルランドでは証券バブルを誘発し、スペインやポルトガルでもバブルのおかげでなんとかやってこられた。ところがギリシャではどういうことになったか。

 

ギリシャ危機

 しばらくの間はギリシャでも借金ができる、ということで消費が盛り上がりましたが、買うものは車であればドイツ製品、電気製品はフランス製品といった具合に肝心の内需が奪われてしまったのです。そして製造業が倒れて、失業者が増える。ギリシャ政府はどんどん冷え込む内需を補完するために、EUのその他の国の金融機関から借金をして、失業対策費用として公務員を採用するわけです。しかしバブルが崩壊すると財政危機になる。これが全体としてのギリシャ危機の経済構造です。

 EUではギリシャであろうと、イタリアであろうと、財政赤字を出してはならないという条約を締結し、EU諸国が弱体国に対して上から強制的に財政主権を奪って管理しようとしています。もう既にギリシャ政府は自由に予算を立てることすらできません。管理されたギリシャは、年金や公務員労働が縮小され、経済そのものが萎縮していきます。こんなことでギリシャの再建ができるはずがありません。だから国民は昨年一年間で何回も大デモンストレーションを行ったのです。

 このように新自由主義の構造改革が現在、ギリシャ、南欧を襲っているのです。これに対して我々が学ばなければいけないのは、これら五カ国は昨年、新自由主義的構造改革に向かおうとした瞬間に国民から抵抗にあい、その政権はつぶれてしまった、ということです。

 

③日本型

 日本はどうか。日本は国内で格差を広げ、内需は全く盛り上がりませんでした。

 過剰資金は大企業に蓄積され、大衆レベルでは格差が進み、貧困が広まりました。国民の所得が伸びないので、国内の消費需要が伸びない。日本の雇用者報酬が一番良かったのは1997年。それ以降の10数年間は悪化の一途で、ワーキングプア、ネットカフェ難民、高齢者では医療崩壊、医療難民、介護難民が続々出てきて、国内の景気が悪くなるのは当たり前です。政府が乗り出して内需を盛り上げようとしたかというと、小泉政権以来やっていません。

 大企業は内需の冷え込みを尻目に、外需、すなわちアメリカ、アジア市場に過剰にモノを売りまくり、過剰資金を貯めていったのです。この過剰資金は国債に回るだけで、国内の需要喚起にはなっていません。大企業はリーマンショック後も、アメリカが駄目なら中国やタイがあるというわけで、手を替え、品を替え、さらに外需を追い求めていきました。

 ところがこの方向で進めば進むほど、不況でありながら円高になったわけです。リーマンショック以前は1ドル120円前後でしたが、この4年間で50円近く円高になりました。これだけ円高になったら大企業もそうそう外需依存ということに活路を見出すことはできません。

 あれだけ破竹の勢いで世界市場に君臨したソニーが3月決算で何千億円という赤字、NECも赤字決算のもと、一万人のリストラをやる、という報道が続々と出ました。

 これはこの半期の間、1ドルが70円台に突入し、また円安になるようなことは、現在の欧米を見ればありえない。つまり、国内で生産したものを外国に売るという体制はもう維持できないということです。いよいよ大企業は国内を見捨てて海外に直接進出し、海外生産比率を益々高めようとします。これはずっと続くでしょう。大企業は、愛国心などは無いようです。

 

3・日本経済の見通しと中小企業の役割

 

①大阪の現状

 橋下大阪市長の話をします。私は関西に住んでいますからよくわかります。関西財界は、橋下を信頼しているわけではないが、彼が無茶苦茶をやっても、もはや自分達が拠って立つ基盤は関西ではなく、アジアである、と明確に思っています。そういう中で橋下は進出したのです。それが大阪の中小企業の弱点になっています。関西の大企業は続々と東京に本社を移し、残った機能はアジアに移しました。大企業に依存してやってきた中小企業は見捨てられたのです。それで段々と地域経済が貧困化していくのです。

 貧困化してくるとどういうことが起こるか。自分達が地域経済の主人公になって活性化する、という方向に向かわなくなります。貧すれば鈍するで、意識や政治的関心も貧しくなるのです。

 私は、今回のダブル選挙の結果は、大阪府民よ、ちょっと正気の沙汰ではないぞ、と言いたいです。これだけ中東では、昨年のチュニジア・ジャスミン革命から始まって独裁にさらばという動きが起こっている時に、独裁が必要だという奴が大阪ではどうどうと大手を振ってまかり通る。そんな馬鹿なことがあるのか。

 

②野田政権の下での日本経済の見通し

 ここで消費税が導入されればどういうことになるか。

 マクロ経済学的にいえば、国民の所得は、消費と貯蓄に分かれます。日本は今、貯蓄が過剰なまでにあるから国債がこれを引き受けています。これに税金をかけると日本国が危なくなるからそれはやらない。やるとすれば消費の方です。しかし消費税が引き上げられるといよいよ国内の消費は萎縮します。これは不景気のもとになる。誰でもわかることです。

 ところが野田政権は、この道に完全に入りました。もしここでTPPに入れば、どんどん細くなる内需を海外に持っていかれ、つまりギリシャのようになるわけです。大企業は外に出て外需依存で、内需はどんどん冷え込み、ますますジリ貧状態になっていくということが見通せます。

 そこで、結論です。日本は少なくとも10年単位で考えた場合には、大企業に依存しなくてもいい。菅前首相が税率を低くするから、減税となった分を国内に投資して雇用を増やすという約束で、経団連に申し入れをして法人税の減税をやりましたが、実際はそうはなりませんでした。

 もし昔のように輸出中心型であるならば、減税分は設備投資に回ったことでしょう。ところが今、国内で設備投資をしても、この円高では輸出に振り向けられない、ということで、家電業界は一斉に国内の生産から手を引いたわけです。これでは雇用は底抜けです。

 こういう状況にも関わらず野田政権は、3月末までにTPP問題と原発問題、消費税にけりをつけるということは、これから10年間をさらに問題ある新自由主義構造改革に進むと宣言したに等しい。

 

終わりに

 

 我々は現状に見切りをつけて、もう大企業なんかいらない、という覚悟をもつ中小企業の経営に期待するしかないのです。

 そうは言っても日本の中小企業はそこまでできないと思われるでしょう。だから問題がずるずる続くのです。

 もしこれができないとなると、どういう方向に進んで行くのか。悪い方向です。ずるずる不振が続いて、10年経ってみたら、大企業は海外にシフトしてしまっていて、中小企業の残骸だけが国内に残っている、ということになりかねません。

 このことを見通して、この3月から4月にかけて、それでは駄目だという問題提起で解散総選挙に追い込まないといけません。国民も日本のこれからの方向について考え直さないと駄目だぞと。

 ウォール街の大物投資家であるバフェットさんは、「もう充分稼いでいるから、高い税金をかけてもらっても構わない」と富裕層への増税を主張しています。フランスでも金融取引税といったもので過剰資金から税金を吸い上げないとまずいのではないか、という動きが起こっています。

 では、日本は消費税ではなく、どこに税金を求めるべきか。それは過剰資金です。大企業の内部留保や、富裕層の過剰な所得です。そしてギリシャのようにならないために、内需に依拠した農業、食品産業、これに関連する中小企業や地域経済を、TPPを阻止して守っていかなければいけません。そして中小企業が内需を担い、それが経済の活性化となるのです。

 こういう大きな道を見通し、これからの日本経済や政治の方向を考えていかなければいけない。そういう2012年にしなくてはならないのだということを最後に申し上げます。

 新春の問題提起になったかどうかわかりませんが、私個人の主観をまじえて提起としたいと思います。

 ありがとうございました。 

 (文責 吉澤由美子)