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第一経理ニュース

随想 No.40

それぞれ

 

スタビライザー株式会社  代表取締役 阿部 敏夫

 

 平安時代まで、花と言えば桜を指していた。平清盛以降、武家社会になって700年余、桜が花の代名詞になって今もなお続く。

 機会がある毎に桜花(はな)を追いかけてその美しさに溜め息をついてきた。

 人それぞれの桜は一年を一週間に凝縮する。
 東北出身のおとなにとって、どの市町村にも、桜は当然のようにそこにある。小中学校の校庭や神社の境内、川の土堤、或いは城跡のお堀に映える桜がひときわ
美しいのは春に咲くせいもある。それは福島県三春の「滝桜」ご存知のように、この地方では梅、桃、桜と四月になれば春を待ちかねたように一斉に花開く。そのために三春の地名を得たと言う。一本桜の代表格でもある。ただし若干の難点は開花時の車による道路の混雑と満開の予想が狂うことである。今迄に五度、車を走らせたのだが、満開の美しさに感動できたのは二度だけである。それでも三春の町役場に電話をして予定をたてる。できるだけ平日にしているのはそのあとは仕事が待っているからだ。独りでの行動のためビールを飲むこともできない。花見は勝率三割をもって良しとすべきか。
 
 斜面に咲く滝桜にくらべると足場の良いのが山形県長井市の「伊佐沢の久保桜」樹齢1200年、国の天然記念物である。ここ20年位で急速に知名度をあげた。何度かライトアップされたこの桜がテレビで放映されたせいもある。地元の名木であっても観光客用ではなかったのである。メジャーになると碌なことはない。根の張りだしの部分を見物人が踏み固めて樹精を弱める。今では板を渡して木道ができている。桜の足もとは人間の脚より弱いのである。シーズンともなれば、この一本の桜のために
露店がでて、ビールが飲める。やはり車で見に行くのだが、この時は大抵社員に運転して貰う。肌寒い冷気のなか、玉コンニャクのおでんで飲むビールのうまさは他の人に教えたくない。

 この桜を見るたびに梶井基次郎を想い出す。桜の下には死体が埋まっている。と表現したのは、どの小説だったろうと。

 群れて咲く桜は花びらの散るのが早い。きっと翌年のために少し栄養分を保存しておくのだろうか。人それぞれの花見があって皇居沿いや上野公園、江戸時代から王子飛鳥山こそ本家と言う人もある。

 団体での花見は桜よりはまずお酒。楽しさが花を一層あでやかにする、などと言いながら飲み喰いに余念がない。それなら練馬区石神井公園の桜につきる。

 西武池袋線、石神井公園駅を降りると徒歩でボート池沿いの水面にゆれる花に風情がある。道路をはさんで三宝寺池のゆるい坂をのぼると野球場がある。ネット沿いに古木を含めて適量の桜が私達を待っているのだ。何年か前、あまりの寒さにカセットコンロを使ったら管理人のおじさんに注意された。都立公園のため火気は厳禁なのである。それにしても少しうしろめたい事がなぜこんなに魅力的なのだろう。いつも社員や政治についてうるさい割には自分達に甘いのである。

 

  
      ねがはくは花の下にて春死なん  そのきさらぎのもち月の頃

    春ごとの花にこころをなぐさめて  六十(むそじ)あまりのとしをへにける

 

 いずれも西行の和歌である。私たちの心境はとてもこの水準には及ばず、ビールがどうの、おでんはまだか、ワインはないのかと非常に現実的な話題ばかりである。この愉快な仲間とは、そっと洩らせば東京中小企業家同友会練馬支部の選ばれた(?)人達の事である。