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第一経理ニュース

講演会報告 「憲法と消費税」

憲法消費税 ―消費税増税を憲法の原則に立ち返って考える

 

 

 

 



伊藤塾塾長・弁護士 伊藤 真

 平成24年4月2日 第一経理で入社式・創立記念式典を行い、伊藤塾塾長・弁護士の伊藤真氏をお迎えしご講演頂きました。

 

 ■ はじめに

 

 今回は消費税というテーマを頂きましたが、私は税の専門家ではありませんので、憲法の原点という観点からお話をしてみようと思います。

 

■ 今はどういう時代か

 

 貧困・格差の拡大によって、生活保護受給者が急速に増えています。これをなんとかしなくては、と民主党政権になったものの、年収200万円以下のワーキングプアの方が給与所得者のうち23%もいるという状況です。また、自殺者は14年連続で年間3万人を超える。それがこの国の実態です。

 そして昨年はギリシャが財政破たんし、世界経済はどうなるのか、という混乱の中で東日本大震災が起きました。一年経ちますが、未だにがれきの処理が殆ど進んでいない状況です。

 こんな状況の時だからこそ、憲法の理念が必要なのだと考えています。

 

■ 生存権

 

 憲法25条に「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とあります。この条文は、マッカーサー草案にはなく、日本人の意思で追加されたものです。生活保護というのは助け合いの精神ではありません。国の責任として、それを必要とする人にとっては権利として、堂々と主張できるものとして規定したのです。

 これは日本国民だけに言っているのではありません。憲法の前文には「われらは全世界の国民が等しく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と書かれています。全世界の国民を視野に入れた憲法は日本の憲法だけです。

 

■ 主体性を削ぐ制度

 

 戦前の軍国主義の明治憲法から新憲法に変わった時に、天皇主権で国家のためにある個人から、個人のために国家がある、という根本的な価値の転換をしました。これは私たちが主人公で、主体性を持っていることがポイントです。ところが、その主体性を削ぐような制度が次々とできあがっています。

 

 まだ軍国主義の時に、戦費調達が必要となってできたのが源泉徴収制度です。ところが、こんな良い制度はない、と大蔵省は味を占めて戦後もそのまま継続させたのです。源泉徴収制度は、税金を自分たちが納めている、という主体的な納税者意識を薄くさせます。

 消費税も同じです。それは税金に対して物言う国民にさせないという、戦後の国の政策と言えます。

 

■ 憲法の本質

 

 ちょっと話を変えて、憲法が政治に対してどんなスタンスをとっているのかについて確認させてください。

 憲法84条で、新たに税金を課す時には国民の賛成を伴う議会によって法律を作らなければならない、という租税法律主義について書かれています。これこそ憲法が生まれてきた理由と言っても過言ではないくらい、憲法の本質に関わることなのです。

 

 1215年イギリスでマグナカルタという最初の憲法が生まれました。これは国王が勝手に税金を取り立てることが無いよう、民主的に歯止めをかけるために生まれたのです。まさにこれが憲法の出発点です。

熱心に聞き入る社員

 

■ そこで、憲法とは何か  

 

 

 私たちは法律に従います。でもその法律は本当に正しいですか?人間というのは間違いを犯す生き物です。日本は戦前、大本営発表を信じ込まされて、国民みんなで戦争に加担しました。9・11の後、アメリカがイラクには大量破壊兵器があることを理由にしてイラク戦争を始めましたが、大量破壊兵器は無かった。

 

 だから憲法が必要なんです。多数の意見が常に正しいわけではない。多数意見にも歯止めが必要。もちろん民主主義の国ですから、国民の多数に従うのは大切。しかし、多数意見でもやってはいけないことはあります。それをあらかじめ頭が冷静なときに書き留めておいたものが、憲法なのです。法律は国が作って国民の自由を制限します。それに対して国民の側は、それがやりすぎにならないように歯止めをかける。それが憲法なのです。

 

■ 憲法の役割

 

 憲法の99条にこんな条文があります。「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」国会議員や様々な公務員に憲法を守れと言っているのであって、我々国民に憲法を守れとは一言も言っていない。国民に税金を払え、というのは税法で、それがやりすぎにならないように歯止めをかける、それが憲法の役割です。

 いくら国民の多数が決めた消費税案でも弱い立場の人を苦しめるものは許してはならない―というのが本来の憲法の基本的な発想です。

 外国と比較しますと、消費税率5%の日本と17.5%のイギリスだと、国税収入に占める割合は日本の方が高いんです。これは、イギリスは食料品や水道代など生活に必要なものは税率が0なのに対し、日本は生活に必要なものにも一律に税金を課しているからで、そういう意味では日本の消費税率は世界最高水準なのです。

 

 様々な環境や能力によって、厳しい生活を強いられている人をその人の立場に立って理解しあい、共に生きられる社会を憲法は目指そうとしているのです。そして個人を尊重し、その人の能力に応じて税負担をする応能負担原則は、憲法13条を根拠としている、まさに憲法の要請なのです。憲法が何を目指しているのか、私たち国民は共有していかなくてはなりません。

 

■ 一人一票

 

 民主主義に基づいて税も決めなければなりませんが、その時に大事なのが一人一票実現なんです。

 参議院議員の一人あたりの有権者数は、120万人の神奈川県に対し鳥取県は24万人。実に5倍の格差があります。これを一票の格差といっています。鳥取県の人1票とすると、神奈川県の人は0.2票の価値しかない。男は1票ですが、女は0.5票ですと言われたらどうでしょう。それが日本の現状です。実際にこの前の参議院選挙で、有権者のたった33%が選挙区選出議員の過半数を送り出しています。すなわち、国民の少数派が国会の多数派を選んで送り出している。国民の多数の声は国政に反映されていないのです。

 

 憲法はあくまでも理想であって、これでは何も変わらないと思うかもしれませんが、理想と現実が食い違うからこそ、理想を語る意義があると思います。今回の講演により憲法の理想を今一度確認し、どういう方向に私たち進むべきなのかを考えるきっかけにして頂ければと思います。

(文責 吉澤 由美子)