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第一経理ニュース

我が社の原点

ブラジルから世界を超えて、静かで美しい音楽を日本に届ける 

 

  

 

 

 

maritmo (マリチモ)  株式会社
代表取締役 成田 佳洋 (なりた よしひろ) 氏

 

 「まだわが社の原点を語るには足りません」と恐縮する社長ですが、最近では南米・日本という枠にとらわれない形でコンサートツアーを開催し、評判をよんでいます。
 現在38歳という若さ、設立4期目、という中で独立起業までの経緯と、ブラジル音楽を通じての仕事のおもしろさを伺いました。

 

 

♪聴き手♪ 本店第二 神谷 菜穂

 

 

♪ 今のお仕事についてお聞かせください

 

 主にブラジル音楽のCDを制作・販売しています。CDの制作には二つの方法があって、一つはブラジルで発売されているものを日本盤として製造、発売する方法と、もう一つは、まったく一から自分で作る方法があります。ブラジルに行ってアーティストと契約して楽曲を録音し、日本に持ち帰って制作・販売する方法です。

 後者の場合は編成、収録曲をどうするか、という打合せから始めて、演奏者、作品イメージ、録音スタジオや技師の手配などを細かく話し合って決めていきます。これは本当に時間がかかります。一から自社で制作するものは、発売するまでに数年を要することも珍しくありません。ですからブラジルで発売されたものを日本盤として商品化することのほうが多いですね。また、CDの制作・販売だけでなく、コンサートの企画もしています。

 

♪ ブラジル音楽と出会ったきっかけは

 

 今も昔もいろいろな音楽が好きで、ロック・ポップス・ジャズ・クラシックなど、様々な種類の音楽を聴きます。

 20代の頃に就職したHMVという大型レコード店で、海外からCDを買い付ける「バイヤー」という仕事に就きました。そこで、ワールドミュージック(主に非英語圏による、民族音楽を含む世界中の国の大衆音楽の総称)を担当することになりました。

 当時、HMVで働きたいという人はとても多く、就職するには難関でした。しかし、ワールドミュージックを担当したいという20代そこそこの人間はあまりいませんでした。

 なぜならワールドミュージックの売り場では世界中の音楽を揃えているのですが、そこに集まるお客様が何よりも専門的なのです。例えば、インドの音楽だけを30年間聴いてきたという方、アフリカ各地を旅して現地の音楽に触れてきた方など、一つの音楽に精通しているお客様に対応する専門性が必要とされました。お客様こそスペシャリストなのです。アラブの音楽など、タイトルも読めないCDすら扱う仕事です。初めは知らないことの連続でしたが、その中でも私は自然とブラジル音楽に惹かれていきました。

 そのままHMVに勤めていたら安定はしているし、それはそれで幸せだったかもしれません。ただし気に入っていた現場の仕事は、勤続年数が長くなるとできなくなります。いずれ管理職になり、自分で音楽を紹介できるバイヤーの仕事が続けづらくなることは明白でした。

 そのうち、どうしても一度ブラジルに行きたいという気持ちが膨らんできました。ブラジルは飛行機でも片道24時間以上かかるのですが、会社で休暇を取れるのはせいぜい一週間です。それではあまりにもったいない。ならいっそのこととHMVを辞めました。

 

♪ 本場ブラジルで知った音楽の新しさ、おもしろさ

 

 2002年、今からちょうど10年前にブラジルに行きました。当初はLPの買い付けのため、自分の好きな1950~70年代の古い音楽で、何か良いものはないかと探しに行きました。現地のレコード店は夕方6時には閉まってしまいます。そのため、今度は現地の生の音楽に触れてみたいと、夜は毎日のようにライブ会場に足を運びました。

 そこで「今のブラジルの音楽が本当におもしろい」ということに気づきました。古い年代のブラジル音楽は日本でも安定した人気がありますが、当時新しいものは日本ではあまり紹介されていませんでした。ブラジルは移民の国で、各都市によって文化や人種、流行している曲も様々なのですが、そうした多様性はまだ日本には伝わっていなかったのですね。例えばサンパウロだったら日系人やアジア系の人たちも沢山いるし、ヨーロッパ・アフリカからはもちろん、先住民や中東など、世界のあらゆるところから人々が集まっています。様々な文化が交差して、クラシックや民族音楽、ロック、ポップスもが渾然一体となって唄われ、演奏されている…とても刺激的な場所だと感じました。

 

♪ 帰国後すぐに独立されたのですか

 

 ブラジルから帰国後、以前に勤めていた小規模経営のレコード会社にふたたび勤務しました。営業職でしたが、規模も小さいので必要なことは何でもやっていました。宣伝や流通販路、アーティストのマネジメントに関わることまで、様々な現場に携わることのできる職場でした。

 レコード店にいた時は「こんなCDが出れば売れるのに」と考えるし、レコード会社にいる時は「お店のバイヤーがこういう紹介をしてくれるともっと売れるのに」などと思っていました。よい音楽を作っても、的外れな宣伝をしたために売れない、ということはよくあることです。様々な仕事に携わるうちに、楽曲の制作の過程から販売まで一貫して見届けたいという気持ちが強くなりました。二つの仕事を通じて、アーティストからお客様に音楽が届く過程を見ることができて、よい経験になったと思います。

 

 独立しようという時、まずはレーベルを経営している先輩達に相談に行きました。そしてある人から、こんな風にアドバイスをいただきました。「ビジネスとしてうまくいくかどうかを考え過ぎずに、まずは好きな音楽を好きなようにやるといいよ」と。「そのままうまくいけば一番幸せなこと。もし行き詰まったら、また話を聞きに来なさい、そのときはもう少し賢いやり方を教えるから」と。

 非常にシンプルですが、今までその考え方だけでここまで来てしまいました。まだ規模も小さいですし、経営者らしい経営理念もなく、ただ実行するスピードのみです。だから自分の強みということをあえていうのであれば、一視聴者として、本当に良い音楽を聴きたいという本能、そして音楽と関わり続けてきた経験値ということになるでしょうか。CDは頂くものも含めて、月に100枚程耳を通しています。コンサートも毎週通っていますし、誰よりも音楽の楽しみを知っておく、ということを日々心がけています。

 

♪ アルバムを発売されましたが

 

 

 今年6月に発売したアーティスト、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバートは、今までに7枚のCDを発売している我が社の主力のアーティストです。日本にも三度招聘(しょうへい)してコンサートツアーを行っています。

アルバム“Sunni-e”(スニエ)

 彼らはブラジル内陸のミナス・ジェライスという州を拠点に活動している男女デュオです。ある日彼らのCDをたまたま買って聴いてみたところ、とても良かった。それで「あなたたちのCDは素晴らしいから、日本でも出したい」とラブコールを送りました。2004年に彼らがブラジルで出したCDを日本盤として発売したのが最初で、これが好評でした。彼らは自分で曲を作るアーティストなのですが、「次のアルバムはあなたと最初から一緒に作ろう」と言ってくれました。

 2009年に初めて、自社企画で彼らのコンサートツアーを行いました。CDの制作・販売以外にも業務の幅を広げたかったことと、自社で企画したコンサートが、どのように聴き手に受け止められるかを知ることにも大きな興味がありました。

 

♪ 南米と和が融合されたコンサートの企画

 

光明寺にて 撮影:志津野雷 2012.5

鎌倉の光明寺という、国の重要文化財にも指定されている大殿をお借りして、これまで何度かコンサートを行っています。ヘナートとパトリシアはブラジル音楽のほかに、インドのマントラを演奏します。この5月には雅楽の笙(しょう)奏者、東野珠実さんを招いて共演するプログラムを実現しました。笙はもともと中国の楽器で、3600年程前から伝わるといわれていますが、ヘナートたちの歌うインドのマントラも、古いものでは紀元前1000年由来とされています。ブラジルと日本という、一見距離のあるように見えるアーティストたちの響きがひとつの調べとなり、お寺の雰囲気に自然と溶け込んでいきました。

 

山寺 馳走舎 撮影:みうら晴子2009.4

2009年には山形の山寺でもコンサートを行いました。山寺は山形市と仙台市の中間に位置していて、松尾芭蕉が「閑(しずか)さや…」で知られる句を読んだ名所旧跡です。切り立つような山崖に、寺院の山門などが点在する非常に美しいところで、その麓の懐石料理店を借りてコンサートを行いました。店内は教会のように天井が高く、ステージ後方がガラス張りになっていて、山寺全体を背景とした素晴らしいロケーションでした。ステージ後ろのガラス越しからライトアップされた満開の桜が、山寺の景色とあいまって、幻想的な雰囲気の中でのコンサートとなりました。当日の予約の問い合わせは集まっていたのですが、山形市の中心部から車で1時間程かかる山の中です。実際に客席が埋まるまでは、本当にお客様が来てくれるのか実感が湧きませんでしたが、結果は大成功に終えることができました。

 山形県は当時、大型レコード店が存在しない唯一の県でした。それまでに彼らのCDを聴いたことの無い人も来てくれたでしょうし、また、生演奏を通じてお客様に感動していただけたのは、自分にとっても大きな収穫でした。

 

♪ これからの挑戦についてお聞かせ下さい

 

 日本と南米のアーティストとの交流を拡げていきたいです。ブラジル音楽が好きな人はブラジル音楽ばかりを、邦楽が好きな人はそれだけを聴く、という傾向はえてしてあるものです。両方を聴く機会を提供できれば、どちらにもより拡げていけると思います。

 東京の草月ホールでの音楽祭に出演してもらった青葉市子さんは、南米のアーティストたちにとても好評で、将来的にブラジルなどでコンサートを企画してみたい一人です。この音楽祭の開催をきっかけに、インターネットラジオ番組の選曲・監修を始めました。JJazz.Net(www.jjazz.net)という局で放送されている様々な番組があるのですが、そのなかに〈sense of “Quiet”〉というプログラムがあります。ジャンルに関係なく、静かで、美しい音楽を紹介する番組です。インターネットで、世界中どこでも、24時間いつでも聴くことができます。

 未知の音楽を聴いてもらうということはなかなか敷居が高いのですが、CDはもちろんのこと、ラジオ番組、コンサートなどさまざまな企画を通じて、新しい音楽を知るきっかけを模索しながら、より多くの人たちに美しい音楽を伝えていきたいと考えています。

(文責 神谷 菜穂)

ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート、カルロス・アギーレ、キケ・シネシ、青葉市子    草月ホール 撮影:志津野雷 2012.5

 

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