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第一経理ニュース

随想

冬の花火


 

スタビライザー株式会社 
代表取締役 阿部 敏夫

 

 それは今迄に経験したことのない美しさだった。オリオン座が澄んで目に優しく、海岸べりの客船が一隻。いつの間にか待機している。
 昨年暮れの十二月九日、十五人の団体で熱海の花火を見に行った。
 とりわけ寒い夜である。ホテルの展望台は10階にあり、ふるえながら眺めたのである。
 眼線から、わずかに上向きの花火がこんなにも近く感じられたことはない。海岸から切りたつ崖のホテルは、この夜のために用意されたかと思う。
 寒さが空気を濾過して一瞬の芸術を一層鮮やかにする。8時過ぎから30分程の興奮に深く酔いしれた。
 熱海の花火は25年程まえに伊豆山の古風な旅館から眺めた記憶がある。遠い距離と、風向きのせいで音もなくあがる花火は心の安らぎになっても感動する程のものではなかった。
 伊豆の海岸と言えば走湯から想い起こして源実朝にたどりつく。

   箱根路をわが越えくれば伊豆の海や 沖の小島に波のよるみゆ

  実朝の万葉調は今でも見える初島の姿に歴史を呼び寄せる。
 冬の花火の印象は、もう一つ。秩父の夜祭りでもみられる、例年十二月三日。寒い。何度か西武池袋線で見に行ったのだが凍るような印象は今でも消えない。
 その美しさの源泉は寂寥(せきりょう)感を伴うところにあるのだろうか。熱海が尾崎紅葉の小説の舞台になり、海岸を散歩する間(はざま)貫一とお宮を描いて明治時代の道徳観に迫ったのは、ついこの間のような気がする。演劇や小説「金色夜叉」もほとんど読まれなくなり、あの絢爛(けんらん)たる文章も急速に波間に消えて行く。或る年齢以上の人達にとって地名そのものが心に棲みついてなつかしい。それは、まさにこの夜の花火のように華麗で切ない。

 

ふたご座流星群

  熱海の余韻を引きずって帰宅は遅くなる。夜十時過ぎに朝霞駅からいつもの静かな小道を歩いた。
 突然、中天から北に向けて長く尾を引く流星を見つけた。この季節、あれが有名な「ふたご座流星群」であることを翌朝の日本経済新聞で識る。
 熱海の夜空で輝いていたオリオン座、そして、おおいぬ座、私が見たのは、しし座の方に流れる明るい星であった。それは、しばらく逢っていない知人を思い出させてくれた。
 もう十五年以上も前のことだろうか。理科学機械を造る会社のその社長は金ピカのブレスレッドをする派手な身なりの人である。訪問した日は、これから出かけるところがあるのでと車に積み込みをしている。いますぐ八ケ岳の別荘へ向かうとのこと。そこには開閉式のドームを持つ天体望遠鏡があるのだと言う。友人、知人の趣味のなかで、一番羨(うらや)ましいと感じたのが、これである。彼は週末ごとに美しい星を捜す夢追い人なのである。
 その人にとって、ひときわ明るいシリウス、こいぬ座のプロキオン、そしてベテルギウスを結ぶ冬の大三角を捜すことなど訳もないことだろう。むしろ星座にまつわるギリシヤ神話の森に分け入ったのではないかと思えることが、心よい嫉妬を覚えるのであった。
 冬の夜空が紡ぎだす数々の想い出は、澄んだ空気の中で一層鮮やかになる。