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第一経理ニュース

新春経済セミナー

日本経済の現状と課題  ~暮らしと経済の再建へ、何をなすべきか~

 

 

 

 

 

講師 山家 悠紀夫(やんべ ゆきお) 氏
(「暮らしと経済研究室」主宰)

 

 2013年2月7日第一経理一・一会、協同組合DDK共催による新春経済セミナーが行われ、今回は「暮らしと経済研究室」主宰 山家悠紀夫氏を迎え講演を頂きました。その講演録をお届け致します。

 

 

 はじめに

 

 安倍政権は、「景気を良くしてくれるだろう」との期待を担って登場しました。目下は株が上がり円安が進行して、期待が強まっている状況です。  
 この状況は参議院選挙まで続きそうです。
 また自民党、公明党が票をたくさん集めるのではないかと心配しています。そうなると経済の問題もそうですが、憲法の問題がどうなるか心配です。
 早く馬脚を現わさないかと思います。
 先入観を持たずに安倍政権の経済政策について、どんな結果をもたらすか、考えてみたいと思います。

 

◆ 長期にわたりデフレが続く日本経済

 

 最初に足元の状況についてみましょう。日本経済は長期にわたってデフレ状態です。景気がパッとしない状況が続いています。
 国内需要は、97年が最高でそれ以来15年間増えない状況が続いています。
 この間、小泉内閣の末期の頃は、景気がよかったのですが、それはこの時期、米国とかEUへの輸出が増えた、中国が大変な成長をした、日本からモノを買ってくれた結果です。それだけ輸出が伸びたにも関わらず、国内需要は長期に低迷しています。この間、海外の景気が悪くなれば日本の景気は悪くなる、良くなれば多少は良くなることの繰り返しでした。
 国内の需要が伸びないのは何故かということを見てみますと、明らかに関係があると言えるのは雇用者報酬です。働く人が受け取る賃金、手当、賞与など雇用者報酬の総額が増えていない、こちらも97年がピークです。
 98年以降は、働く人が受け取る金額はどんどん減ってきたと言う流れにあります。
 一人当たりの名目賃金も増えていません、こちらも97年がピークです。
 98年以降、賃金は景気が悪くなれば大きく下がり、景気が良くなっても上がらない、その繰り返しです。
 賃金が上がらないから国内の需要が増えない、家計の消費とか住宅建設が伸びない。
 賃金が上がらないのは、先進国では日本だけです。97年の賃金水準を100として、米国や英国は最近は50%以上増えています。欧米諸国は、みんな上がっています、一人日本だけが右下がりです。
 経済規模(名目GDP)、総合物価指数(GDPデフレータ)の動きも同様です。日本だけが下がっている。
 モノが売れない、売る側としては、価格を下げる、収益が悪くなる、賃金を抑える、悪循環に日本経済はなっています。
 こうした事が起こっている背景として「構造改革」政策が日本経済を欧米諸国とは違う構造にしたと捉えています。
 企業が儲かっても賃金が上がらない構造となってしまった。
 97年がピーク、98年以降下がっている、この時代はどういう時代だったのかを思い出してください。96年橋本内閣が登場し、「六大改革」を実行しました。97年、消費税率の引き上げ、社会保障制度改革、金融構造改革などが行いました。
 この構造改革の結果、賃金が上がらなくなったと考えます。

 

◆ 「構造改革」とは何か

 

 さらに、2001年から2007年まで小泉内閣の下で、「構造改革」は大きく進められました。
 「構造改革」は、そもそもは90年のバブル崩壊後の長い不況から始まっています。景気がいつまでも良くならないのは日本経済の構造が悪いと言う考え方です。景気はほっといたら良くならない、構造を変えなければいけないという論です。その政策は橋本内閣で、そして小泉内閣で進められました。「企業が儲からないのが良くない」との考え方ですから、企業が儲かるような経済構造にすればよいという論です。
 具体的な政策は規制緩和です。労働基準法の規制緩和や中小企業分野への大企業の進出などの規制緩和、強いものが生き残り、弱いものが淘汰される自由競争の世界にと言うのが第一の政策です。
 第二の政策は、「小さな政府」政策で、政府部門の民営化、民間委託です。同じような政策を進めたサッチャー、レーガンに倣っての財界の意向とアメリカの要望もあっての改革でした。
 この結果、日本経済は企業が儲かっても、賃金が上がらない構造となりました。「構造改革」の下で企業の経営環境が厳しくなり、競争が激しくなりました。そこで、賃金コストを抑える制度を構造改革政策では用意しました。規制緩和をし派遣労働で安い労働力を使えるようにしました。資本に対する規制緩和により企業合併がしやすくなったことの影響もあります。儲かっている企業でもどこかに不採算部門があれば、外から見ればその企業を乗っ取り、不採算部門を無くせば、もっと利益がでる、株価が高くなる、高く売れると言うことで、いつ買収されるか経営者は気が気ではない。経営者にも人件費コストを抑える気持ちが今まで以上に出てきました。さらには、イデオロギーとして、そう言うことを認める考えが広く普及してきました。
 会社は株主のためにあるという考え方が定着し、賃金が上がらない構造が生まれました。

 

◆ 「アベノミクス」は「アベノリスク」

 

 こうした状況の中で、安倍内閣は、「三本の矢」政策を展開すると言っています。
 一番目は、金融緩和政策、二番目は、財政支出の拡大とりわけ公共事業の拡大、三番目が成長戦略です。とりあえず表に出てきたのは、金融緩和政策です。
 選挙前から金融緩和政策を掲げ、それに連れて株が上がり、円が安くなる、景気が良くなるのではないか、一般の人々の期待も高まっています。
 今の株高の背景、一つ目は、米国、EUの事情があります、結論から言いますと米国、EUは景気がいい方向に向かい出したからです。
 米国は、財政の崖から年末に抜け出しました。EUは、ギリシャ問題の峠は越えました。
 経済の見直しが起こりました。それに伴い株が上がりました。連れて日本の株も上がっている面があります。
 二つ目は、安倍さんの政策のアナウンスメント効果です。金融緩和政策を強める、日銀総裁も従いそうだ、それを受けて安い資金が供給されるだろうとの期待が高まりました。
 昨年の10月頃から株は上がり始めていますが、株を買っているのは外国の投資家です。
 政策が現れる前に期待から株が上がっている、円が売られだした、そう言うわけですから、どこまで長続きするかわかりません。

 

◆ 安倍政権の三つの政策で、本当に日本経済は良くなるのか

 

 最初に金融緩和政策の効果についてですが、政府は日本銀行と協定書を交わし2%の物価上昇目標を掲げさせました。
 しかし、これでは景気は良くならないと思います。日本銀行ができるのは金利は0%で下げようがありません。後は量的緩和、市中銀行のお金を増やす政策です。お金を銀行に供給すること、銀行の持っている国債を買い取ってお金を渡すこと、もっぱら金融機関にお金を渡すことです。
 ベースマネー(日本銀行が供給した通貨の総量)を増やすことが日本銀行ができることです。
 それを受けて金融機関がお金を民間に流して、はじめて日本経済が潤い、需要に向かいます。
 民間企業などが借りたお金を投資に向ける、消費に向ける、需要が増えて供給との差が縮まり、デフレが止まると言う考え方です。
 しかし、現状を見ますと、すでに日本銀行は十分に金融を緩和している。先進国中、最低の金利で、量的緩和も一番です。それでも効果がないわけです。
 10年以上、こういう政策を取っています。それでもデフレから脱却できないでいるわけです。それをさらに供給を増やすと言っています。成功するとは信じられません。
 お金を企業はもう十分借りている、借りても使い道がない、経済が成長しないから設備投資もできないわけです。
 ベースマネーは増えても、マネーストック(民間が保有する通貨の総量)は増えないと言う事実が起きています。モノやサービスに回らない、需要が増えないのです。
 しかし、ここに新しい考え方が登場してきました。
 貸し出しを増やすには、インフレ期待を人々が持てば良いと言う考え方で、日本銀行が2%の物価目標を掲げて努力する。人々は、将来2%物価が上がるなら、今のうちにモノを買っておいた方が良いだろう、企業も今のうちに投資しておいた方が良いだろうと考える。そうすると、資金需要が増える。需要が増えて景気が良くなると言う経済学、アメリカでは主流だそうです。
 そうはならないと思います。日銀の供給した資金は、正常な経済活動にではなく、株や外貨など、投機的なモノに向かって行くと考えます。だから株高、円安になっているのです。
 二番目の政策、公共事業の拡大です。今年度の補正予算と来年度予算を合わせて10兆円の最近にはない、大規模公共事業の予算を今、作っています。トンネル工事や震災からの復興もありますが、それ以外に大型の公共工事が復活しています。八ッ場ダムの建設再開など、それで一時的には景気は良くなる、建設業界中心にかなり潤うと思います。ただ問題は、そう言う効果は一時的であることです。また環境破壊の問題。それからお金の問題があります。財政が厳しくなります。その付けは、消費税率のさらなる引き上げとして跳ね返って来ます。
 三番目の政策、成長戦略。就任直後の政策発表の中で、安倍首相は「日本を企業が世界で一番活動しやすい国とする」と言っています。かつての小泉内閣の構造改革と同様な内容、企業をもっと儲かるような日本経済に持って行く、産業競争力会議第1回目の内容には、規制緩和、特に解雇の金銭での解決、TPPに早く加盟すること、原子力推進などの発言があります。しかし、構造改革を進めれば過去の統計から企業収益は上がるけれども、賃金は逆方向に下がることが実証されています。

 

◆ 何をなすべきか、なすべきでないか

 

 今、政権がなすべきでないこと、一つ目は、消費税の増税です。
 消費税は、貧しい人々の暮らしを直撃します。豊かな人、たくさん稼ぐ人は負担が軽く、稼ぎの少ない人は負担が重いという、逆進性があります。
 企業経営にとっても厳しい税金で、特に中小零細企業にとってはそうです。
 消費税の本質は付加価値税、小規模企業ほど、買手に転嫁できません。景気をさらに悪くします。
 増税は、実施する前に取りやめるべきです。
 二つ目は、TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟です。
 政府は、加盟をしたいと考えています。
 TPPでのアメリカの狙いは、アジア向けの輸出を増やしたい、そこに経済大国の日本が加盟すればプラスであるということです。また、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を展望し、アメリカ主導での構築を目指す、それへの一里塚として考えています。
 日本には、経済的メリットはほとんどない。
 TPP加盟の大半の国とは、すでにEPA(経済連携協定)を締結しています。それで十分です。
 加盟の本当の理由は、政治的なもの、アメリカが加盟を望んでいるから、その期待に応えたいと言うことです。
 それでは、日本の農業は、ほとんど壊滅してしまう。例えば奄美大島のサトウキビは、安い砂糖が入ってくれば壊滅します。産業として成り立たたなくなり、島全体がやって行けなくなる。
 北海道の酪農地帯も同様です。オーストラリアから安い牛肉がどんどん入ってくると、日本の畜産業はほとんど壊滅してしまう、米も同様です。
 TPPの統一ルールの問題もあります。それに日本経済も従わなければいけないと言う問題が起こって来ます。郵貯、共済など政府が多少なりともコミットしている業界は、民間企業との競争上、怪しからんとなります。政府は支援できなくなる、健康保険制度も同様です。
 TPP加盟は、日本経済・社会を破壊すものです。
 マスコミは世界の流れ、自由貿易の流れと捉えていますが解釈が間違っています。TPPは排他的経済連合です。経済のブロック化は、自由化に反するもの、戦後の流れに逆行します。
 次に、なすべきことについてです。日本経済に一番必要なことは、賃金を上げ家計の所得を増やすことです。それで需要が増え、GDPが増え、物価も下がらなくなり、デフレ状態から脱するという流れが生まれて来ます。
 大企業には、賃金を上げる十分な力があります。
 大企業の近年の経営状態を見ますと、売上は減っていますが、人件費を減らして経常利益を大幅に増やしています。又、税負担は軽くなっていて、配当金として株主に還元しています。内部利益(剰余金)も倍増しています。
 その利益の使い道がないため、それを証券投資に回している現状です。
 政府ができることは、企業が賃金引上げをせざるをえない環境を作ることです。最低賃金の大幅引き上げや非正規雇用に対する規制強化を進めることです。
 もう一つは、社会保障制度の拡充です。

 

◆ 消費税増税によらずとも財源は確保できる

 

 財政が心配されていますが、日本政府のバランスシートを見ますと確かに巨額の借金はありますがそれに見合う資産は十分にあり、そんなに危ない状況にはないと言うことです。
 しかも、日本国全体では、まだまだ、お金が余っています。
 政府や企業の資金不足は、個人の金融資産、非営利団体等の資金余剰で補っています。それでもまだ余剰があります。日本は世界一の金余り国です。
 日本のお金は、回りまわってアメリカ経済を支えています。アメリカの個人は借金をして、住宅・車を購入、企業は借金をして商売をし、政府は、借金をして戦争をする。日本はお金を貸す余裕がある、これがギリシャとの最大の違いです。
 日本国債の90%以上は日本国内が持っています。財政省が日本は危ない危ないと言っている間は、大丈夫、日本国債を売られることはない、まだまだ借金はできる、当座、いろいろな政策はできると考えます。
 ただこの状態には、いずれ限界がきますから、恒久的財源を確保する必要はあります。
 大企業の内部留保は、十分にあります。
 日本の所得税は、安くなっています。かつて所得税+地方税の最高税率は、88%でしたが、現在50%です。今はこれを55%に引き上げようとしています。もっと上げてもいいでしょう。
 個人所得課税の実効税率は、他の先進諸国に比べると低い、選択としては、消費税を上げるくらいなら所得税を上げた方が良いと考えます。
 財源は十分にあるということです。

 (武江 勇)