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第一経理ニュース

随想

大人の遠足

 


 スタビライザー株式会社
代表取締役 阿部 敏夫


 日差しが強い朝。自宅を七時半に出た。武蔵野線の新座駅まで徒歩で三千歩強。
 今日の目的地は「都立小金井公園と江戸東京たてもの園散策」である。参加者は六名。男女仲良く三名ずつ。一人の女性を除いて、あとはシニア。
 集合場所は現地、たてもの園入口、十時である。
 田舎育ちのせいもあって丁度良い時間に到着とはいかない。四十分も前に着いてしまった。この集まりは一年に一回、もう七・八年続いている。所属する経営者団体、練馬支部の仲間達である。
 西国分寺で中央線に乗り替え、武蔵小金井駅からバスで十分足らず。この非日常の行為が何とも楽しいのだ。
 子どもの時、運動会や遠足、そして修学旅行と、前の晩に寝つかれなかったのを想い出しながら皆んなの来るのを待つのだった。
 以前に何度も来たことのある、この公園が古い桜の樹を充分に育てあげて濃い風情をたくわえていて心のなかまで広々とした感じに満たされる。
 全員揃ったところで入園、ここでも少し嬉しいことがあった。シニアは四百円の入園料が半額だったのである。展示場では大奥の女性達が健筆をふるった巻紙などが眼を奪った。
 前川国男の軽井沢山荘では説明員の解説が静かに説得力をもっている。この人は大きな建築ではコンクリート造りが多く木造は少ないと聞き、それ迄もっていたイメージとは随分と違っていた。そう言えば上野の文化会館も氏の作品だったナー。とすれば安藤忠雄は影響を受けたのだろうかと考えたりしたのである。
 建築家の仕事は厳しい。予算と実用性のなかに芸術性まで求められる。箱根プリンスホテルを設計した村野藤吾や奈良ホテルの辰野金吾を思い起す。東大建築科を卒業したての詩人、立原道造など、ウッカリ、トイレのない家を設計したことでも識られている。
 たてもの園での一番人気は前川作品、そして高橋是清邸、三井邸とつづく。
 囲炉裏のある古民家ではコースターの敷物を編む実習に女性陣は参加した。眠くなるような時間が男性には、ことの他気持ちよい。
 何と言っても今年初公開の西洋館デ・ラランデ邸での昼食が、この日の白眉であろう。全員、カレーライスを注文し、私は例によって生ビール、それもドイツ産をグビグビと飲み、小さな幸せ、ここに極まれりと感激したのである。
 高橋是清邸では説明員の穏やかな語り口が二・二六事件に触れる。昭和五三年の映画「動乱」は高倉健主演で青年将校の決起を雪の東京と共に描きだす。たしか池袋の映画館で観た記憶が鮮やかによみがえる。
 少し歩くと右手に凌霄花(のうぜんかずら)が連なって咲いている。懐かしい花である。

 

のうぜんのもと踊り子の待ち合はす   大野 林火

 

丈(たけ)高き青年出(い)で来(く)凌霄花(のうぜんくわ)   井本 農一

 

 この花はオレンジ色に黄色が強かったりして背たけをはるかに超えて咲きほこっていた。
 「東ゾーン」では突きあたりの銭湯を中心に両側に並ぶ昭和の商店が何とも懐かしい。
 四十才以上なら誰もが思うに違いない。過去の想い出が今ここにある。
 売店で缶ビールを買いタコ焼き一ケと柿の種で一気に飲み干す。広がる昭和は魅力的な部分だけを映しだす。
 桜の古木と古い建物は七月の風を濾過して頬に心地よく、新しい鼓動を創りだしている。
 過ぎ去る歳月が今日の遠足を想い出の中に組み入れるのはいつのことだろう。