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第一経理ニュース

新春経済セミナー

これから日本経済はどうなるか ~中小企業のとるべき道は!!~

 

 

 



黒瀬 直宏 氏
(嘉悦大学院ビジネス創造研究科科長)

 

2014年2月4日 協同組合DDK、第一経理一・一会共催による新春経済セミナーが行われました。今回は、嘉悦大学院ビジネス創造研究科科長 黒瀬直宏氏に講演を頂きました。その講演のほんの一部になりますが、みなさまにお届け致します。

 

 

Ⅰ アベノミクスは日本を救えるか?

 

総務省「事業所・企業統計調査」から製造業の事業所及び工場の数は、全体で見ても1986年を100とすると2009年は61・3。約4割減らしています。
日本経済の再興とは実はこういう状況からの回復であり、単に円安になったとか株価が上がったとか、そんな問題ではないはずなのです。
金融緩和をして、マネタリーベースでお金が非常に増えています。だが、増えているのは銀行の日銀の当座預金だけです。企業に金が回り、国内投資が増加し、それによって働く人が増え、賃金も増え、所得が上昇し、消費が増加し、それによって物価が上昇する、などという軌道には全然乗っていない。「空景気」です。

 

Ⅱ 市場自立型中小企業への戦略

 

1 事業分野に関する戦略

 

自分の仕事は自分で創り出さざるを得ないと思います。日本は、大企業中心の大量生産型産業でずっと来たわけですが、この産業は新興国に移っています。反大量生産型の産業をこれから増やしていかなければいけません。

①需要が高度で つくるのが難しい分野
岡山県井原市の機屋さんを訪ねたことがあります。繊維産業というのは、日本の製造業の中でもっとも早く国際競争力が衰えた業種なのですが、従業員一人当たりの売上も信じられないくらい、絶好調でした。次から次へ新製品を開発していったのです。ジーンズ用にカシミヤ入りの生地、糸むらのある生地、伸び縮みする生地等々。
社長によると、「全国から来るお客さんと話をしていると、その中にいろいろヒントが含まれている。お客さんに教えてもらっただけです。」ということ。ただ闇雲に開発しているのではないのです。ここの生地で作ったジーンズは8万円もします。高級品がターゲットなわけです。
「昔はいいものを安く作れば必ず売れると思っていたが、いいものを安く作るのは中国でもできるようになった。中国にもできないものをつくるしかないということで、つくるのが難しい高級品にターゲットを据えた。」ということを社長はお話になりました。
この機屋さんの言葉に含まれているように、まず日本の中小企業というのは、東アジアと差別化できるような、需要が高度でつくるのが難しい分野に事業領域を設定しなくてはいけません。

②顧客密着が必要な分野
オーダーメードか、規格品でもカスタムメード化が必要な分野です。常に顧客との対話が必要な分野は、海外より国内の企業のほうが有利で、国内であれば大企業より中小企業のほうがはるかに有利です。

③常に開発が必要な分野
同じ設計図を使うのではなく、また設計図から引き直さなくてはいけないようなものです。山形のある金属加工業の社長は、「常に応用問題をやるようにしている。仮に設計図は同じでも二回目は難作材でできているものを扱う。応用問題に関してなら、中国は正直いってまだまだ。」という答えです。
まったく原理の違う新しいことを行うのは、リスクがあります。原理は同じで、より高度にということがリスクは少なくかつ他の経営と差別化できます。オンリーワンにはなれるが、そんなにリスキーではない。単にものを売るのではなく、開発能力を売る分野といえると思います。

 

2 競争優位に関する戦略

大企業中心の大量生産型工業につらなる形で日本の中小企業がやってきましたから、マーケッティングが不得意です。90年代以降の生産の東アジア化によって発注が東アジアに出て行ってしまった。日本の中小企業が自立化するためには、マーケッティングを強化することが絶対的な条件だと思います。

(1)マーケティング: 市場の“つぶやき”を聞き取る

とある印刷業の社長は、常々社員に「個々のお客様に密着しなさい」と言っているそうです。お客様に密着し、現場でどうなっているのか、何を考えているのか、つぶやきを聞き取ることができれば、実際に注文が取れなくても営業のほとんどは終わったようなものと。このつぶやきの意味を考えてみたいと思います。

①顧客密着
宮城県の継ぎ手メーカーを訪ねました。ダクトなどをつなぐ継ぎ手です。今までは商社の発注で規格化した製品を作っていたのですが商社が倒れてしまい、自ら営業活動をしなければならなくなりました。
社長は初めての営業で製品を利用して頂いているエンドユーザーのところに飛び込んだ。すると今まで見えていなかった部分が見え始めた。エンドユーザーは、商社の発注に応じてつくった規格品であるわが社の製品を無理して使い、現場の仕様に合うように作り直している。では初めからお客さんの特殊なニーズに対応する製品を作ったらどうかというので、「無理のきく継ぎ手メーカー」を標語にして営業活動を始めました。これと共に技術も向上し、営業活動に出なくても受注が入るようになりました。

②潜在ニーズの掘り起こし
ある冷凍機の専門メーカーのお話です。鶏の腿肉の骨を自動的に取り出す機械の開発をして、「トリダス」と名付けました。これはメーカーが鶏肉加工業者の依頼に応じて開発を始めたのかというとそうではない。ある時、社員が鶏肉加工業者のところに行って、初めてその作業を見ました。作業は人間の手で皮を剥ぎ、骨を取り出していた。大変な作業で、何とか自動化できないかと思って、5、6年かけて自主的に開発しました。
鶏肉加工業界では昔から人間の手で骨を取り出すことになっている。それ以外のやり方を考えること自体ばかげているという固定観念がある。ところが機械を見せられたら、「こういうものがあればよかった。」ということで大ヒットしたのです。
お客様と1対1の関係に立って会話を交わし、お客様自身が気づかない潜在ニーズを掘り起こすことです。

③顧客との双方向関係の形成
これは大阪のメッキ業者の例ですが、営業担当者は営業に行く時に、お客様に関心のありそうな情報を必ずもって行くそうです。新聞の小さな切抜きでもいいのです。そうしていくうちに、お客様の方から話しかけられ、それがきっかけで仕事のつぶやきが聞けるようになる。
つねづね情報の受発信のループを設けておくと、ループのなかでお客さんのつぶやきが聞こえてきて、取引につながる。
販売というのは情報のやりとりというひとつのループがあり、そのなかであるものが販売に転化するのだと考えます。
1対1の関係になって対応を繰り返し、提案することによってお客さんの潜在ニーズを掘り起こします。そのためには問題意識を磨いてお客さんのニーズを暗に察知すると同時に、顧客との双方向関係を日頃から作り上げておく。これが市場のつぶやきという言葉に含まれていることだろうと思います。

(2)技術開発

技術開発に成功している日本の中小企業の特徴をみると、経験技術を活用している企業が圧倒的に多いです。では、経験技術とはなんでしょうか。
缶詰の写真があります。これが経験技術の典型です。缶詰のタブを引っ張ると、指が切れないように丸まってくれる。これを開発したのは東京大田区の谷啓製作所という一金型屋さんです。
二重のS字でつながったような構造になっているわけです。その二重のS字がくっついているところ、切断面の位置がわずかに違うだけで、ちょっとした衝撃で蓋が落ちたり、引き上げても丸まらなかったりする。だから千分の一ミリ単位で調整する必要がある。社長は、「俺は微妙な勘所がわかる。」と。長年深絞りという金型をやってきたなかでいろいろ身につけた経験技術をもとにして得られる発想なのです。
まさに経験技術なのです。このように日本の中小企業は経験技術の宝庫です。

(3)キーワードは「場面情報」

場面情報というのはその場、その場で発生する情報という意味です。その場面、場面で発生する場面情報というのが重要だと思います。知らせそれ自体は単なるデータです。それに問題意識が反応して、その知らせが意思決定に役に立つようなものに変換した場合に情報に変換したというと思います。
ある印刷屋さんのお話しですが、海外雑誌に載せる広告の印刷で大変な収益を上げていました。社長がある時ニューヨークに行ったら、日本企業の広告が町中にあふれている。貿易摩擦が激しいころです。こんなに日本企業の広告が出ているようだったら貿易摩擦はもっと激しくなるだろう。わざわざ反感を買うような広告を、海外の雑誌に載せる企業はなくなる。そのように発想し、もうこの仕事はやめて、内需に転換すると決めたのです。
ニューヨークにおける日本企業の広告、これは単なるデータです。しかし常々わが社のことが心配な社長の問題意識に触れると、それが経営危機を表す情報へと転換したわけです。
この場面情報こそがまだ利用されていない事業機会を発見させ、かつ占有させるものなのです。

 

Ⅲ「場面情報」発見のために組織のあり方を考える

 

企業が場面情報を発見できる組織体になる鍵は、私は情報共有だと思います。なんといっても中小企業は、フェース・トゥ・フェースという情報媒体を使うことができる。全社員が同じ場所に一斉にいられる。これはすごい財産です。場面情報は、フェース・トゥ・フェースでないと本当に共有できないです。微妙なもの、不定型な場面情報は。それをお互いに情報交換しあうことによって、「そういやこんなことが言えるんじゃないか。」という関係になってくる。そうやってデータが情報に変わっていくわけです。
情報発見に関しては、中小規模の経済性というものがある。大規模の経済性はありません。生産についていうと確かに大規模の生産性というのがありますが、情報発見の経済性はむしろ中小規模の経済性が働くというのが私の考えです。
そういう中小規模の経済性を生かして、大企業が発見できないような場面情報を発見し、それをもとに情報参入障壁で囲まれた独自市場を開拓する。これが中小企業の市場自立型の道であり、それを実際に実現するのが、最初にいいました反大量生産型構造です。
本日はどうもありがとうございました。

(武江 勇)