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第一経理ニュース

随想

本の楽しみ(5)

 

スタビライザー株式会社
代表取締役 阿部 敏夫 

 

 端麗な文章とは、この人の小説を指すのだろう。藤沢周平亡きあとの乙川優三郎がそのすきまを埋めてくれると期待もしていたのだが何しろ寡作(かさく)な小説家である。こちらの痺れが切れるのだ。

p11-本 葉室鱗(はむろりん)、「蜩の記」(ひぐらしのき)は待ちに待った時代小説である。
 舞台は九州豊後国羽根(ぶんごのくにうね)藩。武士の潔い一生を描いて人生を考えさせる。私もこのような生き方が出来ればと胸に迫ってくるものがある。
 自分の廻りにも思い当る人は居ないだろうか?あるいは家族、親族、先祖に。能力や金銭で評価されるのではなく、仕草や、礼儀作法、日頃の行いが立派で公私のけじめがはっきりしている人。葉室鱗は毅然として侠(おとこ)らしい人物を小説の中に引きずり出す。親が子の手本になるような、武士が生き方を自ら追及して藩や農民の典型例として余韻を感じさせながら説得力をもつ人生。藤沢周平が追い続けた小藩のありようを著者もまた再現してくれる。ところどころに先輩の影響をうけたのではないかと思える場面があって、それはそれで微笑(ほほえ)ましい。
 この作品、映画にもなっており読了後、池袋に観に行った。だがどの映画館でもやっておらず似た作品と思われる「拓榴坂(ざくろざか)の仇討」を観たのだった。運命に翻弄される男の使命感を描いて共通する悲哀を感じたものだ。
 平成二十三年度下期第百四十六回直木賞受賞作品。祥伝社版文庫。

 

 p11-本2 現代短歌は齋藤茂吉を超えられないとながく思っていた。
 それでも俵万智をもちだすまでもなく寺山修司の感性に身震いを感じたのは、いつの頃だったろうか。そして珍しく歌集がベストセラーになったのを書店の平積みで識る。
 作者の河野祐子(かわのゆうこ)を読んだのは、この時が初めてである。

  たとえば君 ガサッと落葉すくふやうに 私をさらって行ってはくれぬか

  彼女二十一歳の時の作品。なんと若さに満ち溢れた恋歌ではなかろうか。今は亡き作者のご主人が本書「現代秀歌」の著者永田和宏。岩波新書。10月21日発行。
 秀歌百首のなかには思わぬ人の作品もあって著者の見識に瞠目(どうもく)させられる。流麗な仮名文字の名手塚本邦雄の作品からは

  革命歌作詞家に凭(よ)りかかられて 少しずつ液化してゆくピアノ

  前衛短歌のさきがけと言われた一首。
 俵万智の「サラダ記念日」は歌集としてもその解り易い言語感覚の新しさにおいても話題をさらった。

  「寒いね」と 話しかければ「寒いね」と 答える人のいるあたたかさ

  著者、永田和宏は次のようにうたう。

   一日が過ぎれば一日減ってゆく きみとの時間 もうすぐ夏至だ

  短歌もいいですね。