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第一経理ニュース

【特集】大震災・原発事故から4年、頑張る現地の中小企業

 

 3月11日、早いもので東日本大震災・原発事故から、4年が経過します。
 なかなか進まない復興事業や、いまだに12万人が避難生活を強いられている原発事故のニュースが、ときおり流れます。
 現地では、日々の連続のなかで、復興、原発対応が行われています。昨年の第一経理一・一会で「被災からの復興は地元中小企業で切り開いていく」という分科会を行いました。
 分科会報告者の新協地水谷藤会長に現在の現地の取組について、報告をいただきました。

 

 

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谷藤 允彦 (たにふじ よしひこ)

新協地水(株)取締役会長
葛尾村賠償井戸工事共同企業体・
一般社団法人福島県地質調査業協会・
一般社団法人福島県さく井技術協会顧問

 

 

はじめに

 

 今、福島県では東京電力福島第一原発事故被害の復旧対策が行われています。避難地域の一つである双葉郡葛尾(かつらお)村で、県内の同業企業が共同で、住民帰還のための生活用水確保事業に取り組んでいます。
 この事業は二つの点で非常に画期的内容を持っています。
 一つは、原発事故の賠償とはいえ、10億円規模の事業を地元中小企業が共同で直接受注する道を切り開いたことです。福島県は東京電力の最大電源基地となっています。東京電力の工事は、東京の大手ゼネコンが受注し、地元中小企業は、東京電力から直接元請として受注することはできませんでした。
 そして、二つ目は、地元の中小企業が、被災地住民のために大同団結したことです。結束した力で、村や国の復興局を引き込み、東電と向き合い、東電と有利な条件で直接受注するという、大きな成果を生みました。
 葛尾村の賠償に係る井戸工事は順調に進んでおり、賠償を受ける村民、調整にあたる村当局から喜ばれています。まだ、事業の途中であり、予断を許さない場面も想定されますが、このような成果が得られた背景と要因、新協地水の果たした役割について報告します。

 

地震被害は津波だけでなく 内陸部でも大きな被害

 

 津波の被害が、大きく報道されています。福島での死者行方不明者1815人の多くは、津波の被害者です。内陸部は、地震による直接死者は30人と少ないのですが、全半壊した建物約10万件の半分は内陸部です。大きな被害が出ていることも知っておいてください。

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福島市旭台団地

 

業界団体の緊急支援活動と新協地水の役割

 

 私が会長を務めていた、一般社団法人福島県地質調査業協会(以下「地質協会」)は、直ちに災害応援本部を立ち上げました。道路の損壊の程度・区間の把握、緊急対策の可能性と方法等について、県や市町村に、報告・助言を行いました。同時に、緊急応援活動を開始しました。通信途絶、ガソリン不足、そして会員企業とその社員そのものが被災、原発事故による避難など混乱と困難の中での活動でした。会員企業と技術社員が、よく協会に結集して奮闘してくれました。
 福島県さく井技術協会(以下「さく井協会」)も全国さく井協会の支援を受け、水道関係深井戸の被害実態調査に取り組み、その中から「福島県地質・地下水分布図」を発行しました。この地図が、復興事業を進めるために、活用されています。
 地質協会・さく井協会ともに、震災復旧・復興に組織を挙げて取り組み、会員の結束と相互信頼関係が強まりました。また、自治体や県民の間でも両協会の知名度と信頼性が飛躍的に高まったといえると思います。
 この活動を支えたのは、地質協会会長、さく井協会副会長を派遣し、緊急支援に献身的に取り組んだ新協地水(株)であり、業界内での権威が高まりました。

 

東京電力福島第一原発事故

 

 すでに4年を経過していますが、今回紹介する葛尾村のことを理解するために、原発事故当時を振り返ってみたいと思います。
・3月11日~14日―1・2・4号機水素爆発、1・2・3号機メルトダウン―避難指示区域が拡大、着の身着のままの避難者が県内外にあふれる。
・学校・公民館等の公共施設だけでなく、有志が住宅・農業ハウスを提供、県民の善意が発揮された。
・3月15日~25日―原子炉爆発の危険に県民がかたずをのんで見守る内に、広範な放射能汚染が次第に明らかになり50㎞以上離れた福島市や郡山市民の自主避難が始まる。
・3月末~4月―原子炉爆発の危険はひとまず回避されるも、汚染実態の広がりに合わせ避難の動きがさらに広がる。

 

葛尾(かつらお)村賠償井戸への取り組み

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           福島第一原発の放射能汚染

 

 原発事故の放射能汚染地図で北西に伸びた汚染地域の少し南に位置するのが、葛尾村です。村役場は、まだ三春町に避難しています。村の北東部は帰還困難区域で、非常に汚染の強い地域です。村の大部分は、避難指示解除準備区域として、「除染」を経て、「居住可能」と国が判断をしている区域になります。

 

きっかけと経過

 

 複数の会員から、東電が葛尾村に対し、深井戸を賠償するという情報が寄せられました。避難解除にあたって、生活水の確保という問題が生じました。除染といっても、家の周りや通学路などの、点と線しかできません。放射能は有機物と結合するという性質を持っているので、木が生い茂る山林の除染が問題になります。費用が掛かり すぎるため、国は、山林の除染は行わないとしています。そうなると、生活用水の多くを沢水に依存している葛尾村では、安全な水は確保できません。そこで、汚染されていない深い深度の地下水を得るために井戸を掘ることが必要になりました。

 

会員の結束で受注活動開始へ

 

 全国さく井協会から福島さく井協会へ、葛尾村に関して福島復興局の相談に乗ってほしいという要請がありました。先ほど紹介した、福島県地質地下水分布図作成の実績があったからです。
 福島復興局と葛尾村に接触したところ、放射能汚染の心配のない深井戸を全所帯で掘るという計画が明らかになりました。葛尾村地域の地質・地下水の特質と、水源深井戸の満たすべき条件についての検討書・提案書を作成、復興局・葛尾村・東京電力に提出したのです。

 

東電との交渉経過

 

 最初の東電の対応は、賠償井戸は一括ゼネコンに依頼する。地元業者は下請け・孫請けで協力をしてほしい。地下水調査は東電の子会社が当たるというものでした。たぶん、従来のやり方を、そのまま進めたのだと思います。
 しかし、その内容に問題がありました。東電の賠償方針では、深井戸仕様は、一律、水質・水量は責任を負わず、1所帯1本1回限りと、言い方は少し乱暴になりますが、「掘ればいいだろう」というものでした。
 賠償で掘った井戸から、必要な水が確保できなければ、生活することはできません。村当局に、東電と村の交渉に技術アドバイザーとして参加することを提案しました。復興活動での信頼が生き、了承を得ることができました。東電相手に意見交換を行い、論争しました。福島の地質を知らない設計者に、実態に合わない深井戸仕様の、大幅変更を認めさせることが何とかできました、しかし、他の主要項目は聞き入れませんでした。そこで、賠償井戸工事をさく井協会が一括して実施する条件について交渉を始めました。

 

東電主催の住民説明会と方針の見直し  

 

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協会主催住民説明会

 とりあえず東電のまとめた賠償方針で、説明会が開催されました。仮設住宅10箇所で東電主催の住民説明会を行ったのですが、賠償方針についての不満が爆発、さく井協会の主張で変更した井戸仕様については評価が高かったことが救いでした。
 村は、賠償方針の見直にかかりました。東電・国(内閣府)・村が賠償方針の再検討、改めて住民説明会を行うことになっていたのですが、内閣府と東電の協議が長引き、結論が出ない状況に陥りました。地質協会から住民不安を解消するための広域地下水調査実施の提案を行い、国・東電・村との協議を進めました。

 

 

賠償井戸に関する合意の成立

 

 紆余曲折を経て、次のような内容で、東電と復興局と村で合意が成立しました。
・広域地下水調査を緊急に実施する。水量・水質不調に対応するため、集会所に共同井戸を設置する。―国の費用
・簡易水道水源の地下水への切り替え。―東電が負担
・深井戸の深度は50mから70mに、配管距離は20mから50mに変更。
・賠償井戸・簡易水道工事・集会所井戸はさく井協会に、地下水調査は地質協会に。
・さく井協会は法人化し、施工に責任を負う共同企業体を設立する。

必要な水を確保するための調査と施工は地元企業が行うという内容です。

 

葛尾村賠償井戸工事の教訓

 

 今回の、賠償井戸工事は、総額12億円ほど、さく井協会構成員の年間売上高を上回るものになり、利益の貢献になることが予想されます。
 さく井協会は、県内さく井業者の2/3を組織し、会員の対等・平等に心がけ、学習会を中心に情報共有・信頼関係醸成など、民主的運営を図ってきたこと。さらに災害復旧での共同の活動が、会員の強い結束を生み出しました。こうした努力が成果の土壌となったと考えています。
 また、指導部が機敏に必要な提案活動、適切な組織方針を打出し、献身的に奮闘しました。すべてを「葛尾村民の生活再建のために」の立場を貫いたことが、村当局・村民の信頼を得、東電担当者の心を動かし、事業がスムーズに進んだ原動力と言えます。地域貢献と民主的経営を掲げる新協地水⑭が、2つの協会のリーダーとして貢献してきたこと、しっかりした理念を持った、リーダーのリーダーシップが不可欠であることも教訓の一つと言えるでしょう。

 

現状と展望

 

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共同企業体による起工式 村長挨拶

 昨年の6月に起工式を行いました。対象戸数443戸のうち、井戸の賠償申請者190戸、賠償金(100万円)申請(井戸を掘らない代わりに賠償金を受け取るというもの)190戸、態度未定64戸です。1月31日現在、完成引き渡し70カ所、施工中45カ所、26年度内に150箇所、27年6月までに賠償井戸工事の完了を目指して厳寒の中で工事を進めています。
 葛尾村で、住民に有利な賠償井戸事業が進んでいる情報を得て、周辺町村からの問い合わせや要請がさく井協会に寄せられています。東電が当初葛尾村に押し付けようとした、住民無視の賠償方針受け入れを決めた自治体からも、相談を持ちかけられ、対応に苦慮しています。
 首長が東電と厳しく向き合う姿勢を持っている所と、そうではない所では、賠償の中身が大きく異なっていることも事実です。住民を守るという姿勢の首長と、それを技術的・実務的に支援できる専門家が協力することによって、真に住民に役立つ賠償を得ることができると感じています。

 

葛尾村の現状と課題

 

 私が係っている葛尾村での現状についてですが、アンケートでは、避難指示解除後、帰村する25%、帰村しない40%、未定35%とあり、時間とともに帰村しないが増えています。賠償井戸の希望者は50%ありますが、その中でも帰村を決めている人は少数です。
 宅地除染は完了し、農地除染は27年度中に完了予定ですが、山林の除染計画はありません。山林と畜産に依存してきた村民は、生活手段確保の見通しが立たないのです。
 帰還をめぐって、60才以上と40歳以下では対応が分かれていて、家族分断が進んでいます。高齢者に偏る数百人規模の村が自立できるのか、医療・買い物・生活基盤を支えるマンパワー・地域産業振興など、展望が開けていないのです。

 

原発事故は終わっていない

 

 福島第一原子力発電所では、メルトダウンした核燃料の所在不明、取り出し着手までの工程の後送りを繰り返しています。前提となる汚染水対策が進まず、地震や台風の災害・貯水タンクの老朽化による大事故に発展する危険にさらされています。原発事故対策でのケアレスミス・労災事故続出、熟練作業員の被ばくによる離脱、不良作業員の問題などが発生しています。廃炉作業まで40年を要するといわれていますが、具体的なロードマップは視界不良といえる状態です。
 県内震災関連死は1800人以上になり、毎月数10人ずつ増えています。大部分は原発避難者です。日常になりすぎ、ニュースにもなっていません。原発事故による避難者12万人強(1月現在)、長期の仮設での生活による精神的肉体的ストレスは限界、災害公営住宅建設の大幅遅れ、人権侵害が深刻化しています。
 具体的な問題では国と東電が責任のたらい回し、責任を持つ窓口が決まらない事は変わりません。東電の破綻処理、事故収束対策・賠償廃炉は、国が全責任を持つ体制の構築が必要です。
 4年が経過しましたが、まだフクシマは終わっていません。多くの人に避難地域の現状を見てほしいと本当に感じています。原発で最後の爆発が起きた日3月15日をヒロシマ、ナガサキ、に並ぶフクシマの日とする運動を展開中です。ご協力をお願いいたします。

 
 

① 新協地水(株)の概要
•本社―福島県郡山市、1975年創立
•資本金4,250万円、株主は社員を中心に50人(社員共有企業)、正社員35人、売上高8億円(2013年)
•主な業種―地質調査、さく井工事、鋼管杭の製造・販売・施工、特殊土木工事
•知的所有権―特許・実用新案・商標登録・建設大臣認定工法・性能証明工法等

② 経営理念
1 地盤と水に係る仕事を通して住みよい地域づくりと地球環境の保全に貢献します。
2 地盤と水に係る仕事を通して顧客のニーズに誠実・正確にお応えします。
3 地盤と水に係る仕事を通して社員の幸せと社会の発展を目指します。

③ 企業の特徴
・定例取締役会議と年4回の全社員集会、社内報(月刊、通算287号)、民主的経営
・社内技術研究発表会・管理コストフォーラムの開催―年1回、通算20回
・社外報「土と水」の発行―年2~3回、20ページ、2000~3000部、通算61号