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第一経理ニュース

随想

本の楽しみ

 

スタビライザー株式会社
代表取締役  阿部 敏夫

 

 キュレーターと言う職業をご存知だろうか。そう学芸員のことである。

p11-1

 楽園のカンヴァス 新潮文庫        
  原田マハ 著

 美術作品好きには堪らないミステリー。なにしろ解説を高階秀爾が書いている。この人の美術評論は若い時から読み続けているので一段と興味をそそられ、美術史が一層面白くなる。
 倉敷の大原美術館を一度でも訪れたことのある人には欠かせない小説だ。
 それにしても知識の寄せ集めではない博学。多くの原作に触れたことのある人間だけが識り得る興奮を矢継ぎ早やにくりだして小説に組み立てていく。
 従来の推理小説とは全く違う展開。この手の小説は何処かで経験したような気がする。
 強いて例をあげれば理化学の学術論文をドラマ仕立にした雰囲気とでも言っておこうか。
 実はこの本を読んだキッカケは直近の読書会(ぼく達の会はもう十四・五年経つのだが)の選定図書だったせい。妙齢の女性会員が選んだのである。
 感想例会に欠席の会員は本に関係のある大原美術館の図録を代理出席させた。
 この本の面白さも矢張り会話のテンポを外しては語れない。ある時はハードボイルド風に別の場面では情感を込めて論理的に。
 たまたま大好きな俳優モーガン・フリーマン他二人の警備員が、自分たちの警備する美術館から移転に乗じて好きな美術品を盗もうとする映画「ザ・バッド」をDVDで観た。
 その中で大事な賓客に説明する案内人に「新入りのキュレーターめ」と罵声をあびせる場面がある。
 キュレーターと音声で聞いたのはこの映画だけ。新聞記事で二度見ただけだから気になって友人に聞いた。
 学芸員と日本語訳するが現実に美術館でも色んな決済権限をもつ権威のある職業です。とすぐ調べてくれた。若い人は速い。

 

p11-2 背教者ユリアヌス 中央公論社  昭和四十七年十月 初版発行 
  辻 邦生 著

 ぼくにとっては忘れ難い本と言ってよい。今から四十年も前の著作である。それでも或る時期この人の著作に夢中になっていた。この本の頁をめくると叙事詩と見紛うばかりの端正な文体に向き合うことになる。
 それがローマ史の世界へ誘ってくれる。コンスタンティヌス大帝の頃と言えば解り易いであろうか。歴史はどの世界の、どの時代の頃であっても面白い。
 まるで見てきたような、とはこのような文体を指すのだろう。
 叙情に傾斜しすぎず美しい文章が古代ローマの四世紀を物語っていく。七二〇頁の大冊であるから少しづつ読み進むのがいいのかもしれない。
 塩野七生ならもう少し読み易い。司馬遼太郎なら、もっと面白い。とも言えるだろう。それでも文学的知性に裏付けされた本書は、その完成度の高さにおいて圧倒的である。読み続けるのに若干の忍耐が必要であっても、その労を惜しむべきではない。この著者には「安土往還記」「嵯峨野明月記」や多数のエッセイ集があるのだが、読後の印象はいずれも典雅な陶酔の世界へと導いてくれる。
 「砂はまるで生き物のように動いて、兵隊たちの踏んでいった足跡の乱れを、濃くなる闇のなかで、消しつづけていた」。
 この本の結末は、まるで詩のように終る。