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第一経理ニュース

随想

本の楽しみ(7)

 

スタビライザー株式会社
代表取締役 阿部 敏夫

 

 さくらが花を散らすようにはげしい想いを時代に預けて命を縮めたのは吉田松陰である。
 大河ドラマ「花燃ゆ」は妹の杉文を回転軸に激動の明治維新に側面から迫る。
 野山獄で女囚高須久子との交流が、かすかな心の通いあいを感じさせて奥ゆかしかった。

  野山獄相聞抄  古川 薫 著   文芸春秋刊 昭和56年3月 第一刷

p11-1 本書は同じ場面を彼女の立場から描いて切ない。

  四方山に友よぶ鳥も花に酔ひ 久子
  蝶と連れ行く春の野遊び   松陰

  二人の連句である。老中暗殺を扇動するなど過激な思惑のなかで獄中での久子とのほのかな想いは次の一句が証明する。久子への最後の句。

  一声をいかで忘れんほととぎす 松陰

  文章の美しさが心を洗って悲しい迠に清冽な作品。


  幕末史  佐々木 克 著  ちくま新書 2014年11月第一刷

p11-2  歴史書は面白い。明治維新史を読むと、まるで現代史の予告編を見ているような気がする。
 幕末・維新は結果よりも経過が一段と興味深い。スポーツの勝利と同じで勝者には圧倒的な賛辞の他に新しい方法論が用意される。そのため微に入り細にわたって勝った原因を注意深く明らかにする。学者や小説家も又その比重は、かわらない。それでも正確に事実を積み上げていく本書の視点は公平である。長洲と薩摩がリードした明治維新は現代史そのものだ。ペリー艦隊の圧倒的な戦力を前に準備がなくても攘夷に熱狂する藩の若手、長洲にしても一致することない藩論を制したのは派閥の中の武力である。暴力が政権をとることによって大義を持ち得たのである。
 幕府の苦悩は現実をそれまで直面することのなかった外国との交渉を政治のなかに取り込まざるを得なくなる。歴史に“もし”はないのだが自分なりの分析や読み方によって事実は向こうから近づいてくる。


  乱  綱淵 謙錠 著   中央公論社 1996年11月初版

p11-3 時代はまさに戦後70周年を迎えて平和論が盛んである。終戦とは太平洋戦争のことであろう。それでも戦とは会津戦争を指すと素直に思っている人達がいる。奥羽越列藩同盟の旧三一藩。徳川幕府側の東北、新潟地方である。戊辰戦争とは旧徳川幕府側と官軍と称する新政府軍、いわゆる薩長土肥を主体とする西側の革命軍との武力衝突のことである。当然の如く勝った側に大義はある。私は世界史の中の日本を考えるとき消極的にそれでも良かったと思うのだが、もう少し敗者に配慮がとれなかったのだろうかと嘆息する。
 本書の白眉はパークス以下による神戸の軍事占領記述であろう。新政府になっても外国公使に適切な交渉を怠ったために危うく国土の一部を失うこところだった。
 井伊直弼の切実さが理解され吐息が聞こえてくる。敗者の歴史は哀切きわまりない。