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第一経理ニュース

新春経済セミナー

景気と暮らしはどうなるか  ~アベノミクスと日本経済~

 

 

 

 

 

 

講師 : 山家 悠紀夫 氏            
(「暮らしと経済研究室」主宰)

 

 2016年第一経理一・一会 協同組合DDK共催による新春経済セミナーが行われ、「暮らしと経済研究所」主宰 山家悠紀夫氏をお迎えしご講演いただきました。
 今回は、その要旨をご報告いたします。

 

1 景気の視点から見た日本経済の今

 

短期的にみると

 短期的な景気循環という視点でみましょう。景気動向指数(政府が景気の状況を指数にしたもの)(図1)で見ると、最近の景気の谷は2012年11月です。12月から景気は回復に向い始めました。2013年1月に安倍政権が発足し、その(回復過程の)流れに乗って、しばらくは景気が上り坂に向かっています。このように、安倍内閣発足当初は、景気はかなりの勢いで良くなった。しかし、その一年後からは、ほとんど横ばいの状態になっている、と認識して頂いたらよいと思います。

p2図表1

(出典)日本銀行「通貨及び金融の調節に関する報告書」一部改正


中期的にみると

 2008年から2009年にかけて景気の大きな落ち込み(リーマンショック)がありました。中期的に見ると、現在はそれからの回復の過程です。その過程で2012年に落ち込みがありました。その前の2011年に小さな落ち込み(東日本大震災)がありました。日本経済を中期的にみると、2008~09年の落ち込みから回復する過程にある、と認識されます。
 次のグラフ(図2)の太線は有効求人倍率(求職者の数/企業の求人の数)です。1を超えると、選り好みしなければ、就職はできる事になります。長い景気回復過程の中で、だんだん雇用は、上向きになっていました。現在のところ安倍内閣がその最終走者、駅伝でいえば、第一走者、第二走者、第三走者が頑張ってきて、安倍さんが受け継いで、今のところいい流れで来ているということです。雇用の改善は安倍内閣ひとりの功績ではありません。

p2図表2

(出典)日本銀行「通貨及び金融の調節に関する報告書」一部改正

 

長期的に見ると

 長期的に見ると日本経済は、長い景気低迷・景気停滞が続いています。
 GDP(国内総生産)の動きをみます。1997年(戦後日本経済のピーク)を100として、数字で比べてみます。1998年から落ち込み始め、その後は、落ち込んだり上がったりと、景気循環の流れはありますが、一度として1997年の水準を超えることはありません。2014年は93、日本経済は1997年に比べ7%ほど落ちた水準の活動状況にあります。

p2図

(参考)内閣府「国民経済計算」

 

[国内民間需要]
 GDPの背景にあるのは需要の動きです。国内の民間需要と政府の需要、輸出の三つがGDPの基になっています。一番大きいのは、国内の民間需要(個人消費、企業の設備投資、個人の住宅建設などの集合)です。国内民需も1997年がピーク。1998年から落ち込んで上がり下がりがあり、いまだに1997年の水準を、回復していません。国内で商売している企業の方は、2014年の数字が96ですから、1997年に比べて売上高が4%落ち込んでいる、それが標準の企業経営の姿だとみて頂いていいと思います。そんな停滞状況にあります。

[雇用者報酬]
 雇用者報酬の動きをみましょう。日本で働いている人の全員が一年間で、受け取った月給、ボーナス、諸手当等の総合計です。これも1997年がピーク、1998年から落ち込み始め、以降ずっと落ち込んで、2014年は91の水準です。働く人の所得の合計は最盛期に比べて9%ほど少なくなっています。

 

 

2 アベノミクス「第一ステージ」をどのように評価するか

 

自信満々の安倍首相

 安倍さんは、自民党総裁選で無投票で再選された(2015年9月24日)後、記者会見で「アベノミクスの第一ステージは終わり、今日から第二ステージに入ります」と突如宣言しました。「アベノミクスによって雇用は100万人以上増えた」「2年連続で賃金が上がった」「中小・小規模事業者の倒産件数も大きく減った」「デフレ脱却はもう目の前だ」「この3年で日本を覆っていた、あの暗く重い、沈滞した空気は一掃することができた、日本はようやく新しい朝を迎えることができた」と短い記者会見で語りました。つまりアベノミクスのお陰で、こんなに良いことがたくさん起こった、と発言しています。

 

しかし、実態は

[雇 用]
 雇用が100万人以上増えたのは事実です。ただし増えたのは、もっぱら非正規雇用 (パート・アルバイト・派遣等)で145万人増えましたが、正規雇用はたった2万人増えたに過ぎません。

[賃 金]
 
厚生労働省が、大企業(資本金10億円以上、従業員数1,000人以上が対象、約300社)を対象に調査を行い、ベースアップ率の集計結果を発表しています。昨年の実績は2.3%アップでした。
 一方で、毎月勤労統計(厚生労働省)という、働く人5人以上の事業所で働いている人の賃金を調べている統計があります。ここには正規雇用も非正規雇用も入っています。2013年安倍内閣発足の年は、前年に比べ1%のマイナス、2014年は0.4%のマイナス、2015年になってようやく前年比0.1ないし0.2%のプラスという統計が出ています。3年間を集計すると賃金は、安倍内閣発足前より下がっているというのが実態です。
 こちらの方が大事な統計で、全体を示す動きだと思います。

[企業の倒産件数]
 企業の倒産件数が減ったのは事実です。2012年よりも2013年、2014年と倒産件数は減っています。一方、企業の休廃業、解散件数の統計を、東京商工リサーチなどが出しています。件数が、ものすごく増えています。2013年は29,400社、2014年は27,000社です。だいたい倒産件数の3倍ぐらいです。特に中小・零細企業は「倒産する前に辞めてしまう」という企業がけっこう増えているのです。非常に厳しい状況は変わっていない、更に厳しさを増していると、みるべきだと思います。

[デフレ脱却]
 安倍政権発足前、日本銀行が消費者物価指数を前年比2%以上上げるとしました。現状は前年比マイナス0.1%とか、プラス0.0とか0.1%。前年に比べ、物価は基本的に上がっていないという状況です。「デフレ脱却はもう目の前です」という言葉については、何を根拠にこういうことを言うのか、さっぱり分かりません。

 

安部首相の発言を、現実を踏まえて正しく言い換えると

 安倍さんの先ほどの発言を、日本経済の本当の姿を現して言い直すと、「アベノミクスの下、雇用の非正規化が一段と進んだ」「働く人の賃金は安倍内閣発足前の水準を、今だに下回っている」「中小・小規模事業者の休廃業は、高水準になっていて、経営は厳しい状況にある」「デフレ脱却は、いまだ先が見えない」「この3年、いろいろやってみたが、政策効果は乏しかった」これが正直な感想になると思います。第一ステージが駄目だったから第二ステージを新たに始める、というのが正確なところだと思います。

 

なぜ、こうなったのか

 なぜこうなったか、要するに安倍内閣の政策が基本的に間違っていた。「三本の矢」は的を射抜く矢ではなかった、ということです。こういう成果をみると、かなり惨憺たるものがあると思います。

 p2

 

3 アベノミクスは「第2ステージ」へ

 

「第2ステージ」とは何か

 安倍さんの発言(2015・9・24)を追っていきます。「アベノミクスによって…もはやデフレではないという状態にまで来た。本日、この日からアベノミクスは第二ステージへと移る」
 第2ステージとは何かというと「目指すは一億総活躍社会。そのために新しい三本の矢を放つ。」

第一の矢…希望を生み出す強い経済。GDP600兆円の達成を目標として掲げる。
第二の矢…夢をつなぐ子育て支援。そのターゲットは希望出生率1.8の実現。
第三の矢…安心につながる社会保障。介護離職ゼロという明確な旗を掲げる」

 聞いただけではよく分かりません。矢というよりは、的ばかりあるような気がします。お互いの関連もよく分からりません。

 

ともかく、その目標自体が問題である

[出生率1.8]
 
出生率を上げるためには、若い人が産める環境を整える必要があります。
 私の若い頃は、結婚している先輩がいる、あのくらいの年齢になると、あのぐらいの給料が貰えるから、結婚しよう、子供も産める、という展望が持てたのです。みんなが何年か後の自分の姿を、職場の中で想像することができたのです。
 ところが今の若い人は、半分くらいが非正規で、先輩を見ても、そういう人がたくさんいる。先輩を見ても先が見えない。そういう「先の展望が持てない」ことが、子供が産めない、そもそも結婚をしない、ひとつの大きな背景にあると思います。それから、給料が安すぎる。結婚して二人で稼げば、何とかなるが、そこにもう一人増えたら、もう生活の目途が立たない。正社員の人は、毎日遅くまで残業して、帰って来るのは随分遅い時間だ。奥さんだって働いて大変だ。
 お金がない、時間がない、先の展望がない。このような状態を改善しない限り、なかなか出生率は上がりません。

[労働者派遣法の改正]
 
安倍内閣は、労働者派遣法を改正しました。永久派遣、企業が人さえ替えれば、ずっと派遣を使い続けることができる。正社員にしなくてもよろしい、派遣される側からすると、ずっと派遣の立場かもしれない、という不安を増すような改革です。
 それから、時間外手当をゼロにして、残業時間がもっと長くなるかもしれない。
 さらに、お金を払えば企業は、社員を首にすることができる (金銭解決)、という法律を作ろうとしています。ますます不安定になる。そういう政策を一方でやりながら、出生率を1.8に上げていきますというのは、明らかに矛盾します。

[介護離職]
 
介護離職も同じです。安倍内閣になってから、要支援者に対する事業は、介護保険から切り離す、市町村に任せるなど、どんどん介護サービスを低下させています。
 それから特別養護老人ホーム、入れるのは要介護3以上の人(障害の重たい人に限る)、それ以外の人は受け付けません、ということです。
 ますます家庭で介護せざるを得なくなる。介護離職ゼロを目指します、というのは、どう関連するのか、全く分かりません。 

 

 

4 日本経済と暮らしを良くするために ~どうすればいいのか~

 

 どうすればいいのでしょうか。安倍内閣がやろうとしている労働法制の改変、社会保障制度の改革を防ぐ。来年4月からの消費税を再び引き上げさせない。TPPを実施させない。働く人の暮らしを良くする政策を実現する。そうすれば暮らしが良くなり、働く人の収入が増える。労働条件がよくなれば、経済全体も成長し、景気がよくなり始めるという環境になります。
 今の景気を悪くしているのは、賃金が上がらない、それどころか、下がり始めた事が大きな要因です。それを増やす方向にする。それによって、日本経済全体が生き返ることができる。そういう政策をとることが必要です。そのためにも「労働環境の抜本的改善を図る」「社会保障制度の拡充を図る」。それから「地方経済の再建を図る」「農業・林業・漁業を大事にする政策をとる」「アジア諸国との協調を図ることにより、軍事費を削減し、社会保障費に向ける」。それらを実現する政府を作ることが必要です。

 (北村康生)