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第一経理ニュース

シリーズ 我が社の原点

 

人の集える空間をつくりたい

有限会社 ビストロ  代表取締役 矢口 晴夫 氏

埼玉県越谷市に3店舗のイタリアンレストランを開いている有限会社ビストロですが、今年8月さいたま市緑区に4店舗目Chouchou(シュシュ)を積極的にオープンしました。その新店舗にお伺いし、意気込みを矢口社長にお聞きしました。

聞き手 埼玉事務所 高石 達雄

●交通事故が転機に

――そもそも飲食業をやろうと思ったきっかけはなんですか?
社長 高校2年生の冬休み、兄の750ccのバイクに乗っていたら当て逃げされまして。複雑骨折で治るのに半年かかり、それが引き金になって部活も受験も上手くいかなくなりました。肉屋をやっていた兄に「車を買ってやるから肉屋をやれ」と言われ、やってみたのですが、これが自分に合わなかった。
肉を卸しにレストランに出入りしているといい香りがして、いつかはレストランをやりたいと思い、外に出ました。24、5歳だったかな。1年の内に2軒レストランを変え、働きました。休み時間にはレシピとかいろいろ勉強して。

――調理場では肉屋の経験は役に立ちましたか。
社長 包丁は使えるから役に立ったかもしれないけれど、レストランってそういう問題じゃない。肉屋は原料だけ、料理を作るのは初めてだったし、もうワンステップ上がらなきゃいけない。レシピを作って、従業員教育もして、その他色々なものがあります。
2軒で働いたら「自分でもできるぞ」と思って始めてみたけれど、そう簡単ではありませんでしたね。

――すぐにご自分で店舗を出されたということですか。
社長 初めは肉屋の兄が出す店に店長として入って、そこで問題点を発見しました。店は60席ぐらいで、ホールとキッチン2人でやっていました。25歳から9年間。

儲かる儲からないの境界にある秘訣

社長 駅から15秒。雨に濡れずにさっと入って来られる。いい立地だけど、目立たない。 それに、2階で間口が狭い。
メニューはすごかったよ。熱燗はやる、サイフォンでコーヒーは入れる、何でもあり。下が兄の肉屋だったので、肉は新鮮でしたね。

――でも、いいものを出していても客はつかなかった。
社長 そう。地の利と宣伝・販促、あとは従業員の教育、そのバランスが保たれてなければならないのです。
その時、人のお世話というのは飽きないなと感じました。再開発で店は閉じることになり、代替地が高架下でした。そこが分岐点です。平成元年に独立ができました。

――高架下のお店が初めて完全に自分の経営ですね。
社長 そうですが、同時に新たな勉強をしなければと思いました。そこで、出入りのコーヒー豆屋に電話して、群馬のレストランに連れて行ってもらいました。
その店のイメージを、現在の本店や大成(おおなり)店の造りに取り入れています。ログハウスですごく暗いのです。20ワットの電球の中で食事をする、よくこんなところでと思いましたが、その店がとても忙しい。なぜかと言うと美味しいコーヒーを出していたのです。そこが気に入ってこの造りにしようと思いました。

まさに「手造りの店」が完成

――それから早速店づくりですか。
社長 大工さんに設計図もなしに目測でやってもらい、35坪を20日間で造ってもらいました。お金はないから、水道と排水の配管は自分で行い、ペンキも塗って、看板まで作りました。
平成元年4月にオープンでき大盛況でした。開店したらすぐ閉店時間になる。1日が早くて休憩時間も取れないほどでしたね。
コーヒーとスパゲティとピザをコンセプトに、ご飯系は一切出さなかったです。商品に関しては、今の原点ですね。
徐々に従業員が入り、そこで人は育てなければいけないということを学びました。あと販促やメニュー開発、とにかくマニュアル作りに専念しました。その時の原本が今でもバイブルとして生きています。

先を見越した事業展開

社長 ただ代替地で立退かなくてはならなく、次の手を打っておかなければと思い、今の本店を越谷にオープンしました。
いい時ってタイミングがまた良くて、バブルで値上がりした自宅を売却して本店を買って、その時にイタリアンのシンプルな店の形にしたのが今の原点ですね。

――最終的に商品をしぼっていった経緯というのは。
社長 もともと自分がコーヒーとスパゲティが好きだったから、それが一番ですね。メニューが多いと管理が大変で、人に教えるのも大変。だったら全部切っちゃえ、と。
人の意見は聞かずとにかく自分がやりたいようにやる、と基本はそこです。ただ今はもう自分の世代じゃないなとつくづく感じます。

店舗買収騒動がきっかけで

――息子さんがお2人働かれていますが、事業を引き継ぎたいと言われたのですか。
社長 それは4年前に危機があったからです。会社の状態が悪いので長男と次男に力を貸してくれと声を掛け、そこから2人が経営に関わるようになりました。4店目のコクーン店を任せていた部長が、営業権が欲しいと言い出したのです。一応話が収まった後、その人が従業員も連れて辞める形になり、コクーン店は閉めました。

――閉めるのだったら、営業権をあげてもよかったのでは。
社長 コクーン店だけでなく全部が欲しかったようだし、営業権の提示金額が全くないという非常識な申し入れで、受け入れられるわけがない。
不穏な動きを察知して息子を入れたら嫌な顔されたけど、そういう仕掛けをしないと会社自体守れないから。
その時の守りと攻めは本当に大変でしたね。人に関する問題の話はよく聞きますが、他人事としてきました。2人で始めた時も大変だったけれど、人にまつわることが一番大変だね。エネルギーは使うし。今は落ち着いて、去年は次男がイタリアに10ヶ月間行って香りを嗅いで来れたし、私も5日間ほど同行しました。

――イタリアに行かれて感じたことは?
次男 いろいろな民族がいて文化が混ざっているというのが印象的でした。イタリアはいろいろな料理があるわけじゃなく味もシンプルなものが多かったけど、インスタントはあんまりなくて、手作りのものが多いです。

新規開店の経験を積んでもらう

――美園店のオープンの準備はどなたが。
社長 事業継承を考え、オープンの準備を息子たちに一から体験させたかったのです。
まだ店舗内装の設計・什器備品の発注は任せませんが、打ち合わせは同席させ、新しい発想を活かしながら同調して進めました。新規店舗はデザインから入るので、意見を聞きながら選択させた部分もあります。
長男は部長として会社に入っていますが、頼んでないのに会計までやってくれます。言葉には出さないけど、自分がやるんだという気持ちの現れかな。
結局どっちにしろ、失敗はあります。どうせ失敗するなら、好きな方を選ばせて失敗させたほうがいい。自分もいっぱい失敗して今があるのだから。最後には社長として責任を取ればいいんです。

――採用面接は社長がされているのですか。
社長 そこは長男任せです。人も物も自分が選んだ方が、思い入れがありますから。

将来の目標は分社化で責任のある仕事を

――後々は分社化したいというお気持ちのようですが。
社長 早めにやりたいと思っています。責任を持ってもらうことが一番大きいです。個人個人に責任を持たせながら、円滑に運営するという事ですね。
本店はそろそろリフォームして、若い人に任せようと思っています。スタッフの中でやる気のある人が受け継げば、スタッフ間の士気も高まります。
分社化して店舗が違っても、ビストロで働いている良さを出していきたいですね。

――ビストロの良さとは何ですか。
社長 気持ちが通う、みんなの気持ちが分かる会社になりたいですね。今はオープンしたてで余裕がないですが、スタッフの意思疎通ができる場をつくらないといけないと思います。

――肝心な味に対するこだわりや思い入れはなにか。
社長 味はそこそこでいいと思っています。こだわりますが、そこそこでいい。要は接客です。ファミレスにはない温かみ、これを出すのが最優先で次に料理。「あそこに行くと和むんだよ」と思ってもらえるのが一番です。

こだわりのパスタ

社長 ただ、こだわりのパスタはありますよ。納豆パスタにはまったら大変。あとは、お茶漬けスパゲティや梅スパゲティ。つわりの女房のためにさっぱりした物を私が作って食べさせたのが始まりです。
(レシピ)
①梅スパゲティ
マーガリンに梅肉を和えただけ。カイワレを散らして、ツナをポンと乗せる。
②お茶漬けスパゲティ
和風だしに麺を入れて、鮭、タラコ、イクラ、それをトッピングして飾る。シソと海苔。そこにワサビ。麺と具を食べたあとスープが残ったらワサビを溶かして飲む。

――食べてみて?
社長 斬新なレイアウトと奇想天外なメニューをやる。やるけど、ヒットしないんだなあ。

――セントラルキッチン方式を導入しているそうですが。
社長 ソースものを一元管理し、どの店でも同じ味が出せるようにしています。そうでないと店長が代わると味も変わってしまいます。同じ店名で同じメニューで出している以上、各店独自にというのは統一感がなくなってしまいますから。
名前もメニューも変える方法もあります。しかし、そこには店長が辞めた時、その味を引継げないというリスクが生じるのです。

――導入にあたってのご苦労というのは何かありましたか。
社長 最初は四苦八苦でした。新しいことをやるのは大変だよ。大量に仕入れるので、レシピどおりにはいかないね。10倍の量を作るには10倍の材料かというと、そうでもない。ここは何分でどうなってと時間を計りながら事細かに決まった手順を踏まないと作れない。レシピが完成するまで1ヶ月ぐらいかかりました。

すべての基本は人づくりから

――接客のためにしている教育というのはありますか。
社長 「いらっしゃいませ」はマニュアルじゃなくて間に合わせるもの。お客様の間に自分達が合わせるという事だから、お客様の目線を見ながら考えて挨拶をしなさいと。
身に付くのに時間がかかることなので、タイミングを見ながら言っていますが、相手が同調しないのに言ったって駄目です。打ち合わせとかで同じ気持ちになって、浸透するようにサポートしていかないと。
あと、メニュー作りは何度か挑戦させています。自分が作る物に対してのプライドや責任が各自に出てきた時、強い会社になると考えています。

――テーブルにお客さまアンケートがありますが。
社長 社員全員が意見を聞く側に回らないと駄目だろうと。アンケートをスタッフがどう考え、結果をどう数値化するか、それを文章化しどう活かすかという作業まで必要になってきます。
あとは「こうありたいな」というものや経営計画があればいいと思いますが、早く完成させようとは思っていません。すべての基本は人づくり、まだまだ時間がかかる永遠のテーマです。

――飲食店を続けていて楽しかったと思うことは。
社長 私は自分の時間をつくりながら仕事をするというスタンスで、プライベートも仕事も充実している、みんながそうできればいいかなと思っています。
お客さんと接している時は本当に楽しいですね。現場は楽しいよ。けど現場にずっといられるわけじゃないから、それはさみしいかな。

――本日はありがとうございました。
納豆スパゲティもなかなかのものでした。皆さんもぜひ一度足をお運びください。

(文責 田中由梨)