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第一経理ニュース

随想 No.24

 

映画の想い出(Ⅳ)

スタビライザー株式会社 代表取締役 阿部 敏夫

おもいたって、東京のふるさとと言われる青梅市の街を歩いてみた。
映画の古い看板やポスターがある所だと聞いていたからである。
朝霞市膝折町(ひざおりちょう)の自宅から三千歩程で武蔵野線の新座駅だ。西国分寺で乗り替えると丁度、青梅直通の電車が来た。青梅線と言うだけで何か鄙(ひな)びた風情を期待してしまう。それは数年に一度も訪れることはなく、まして独りでの旅(?)など滅多にないせいだろう。乗車後一時間強で青梅駅に降りたつと気分はすでに旅人である。
ホームには「青梅想い出そば」と表示の小さな立ち喰いそばの建屋があり、側面には古い映画のペンキ絵が眼に入る。
それは「大いなる旅路」。三國連太郎、高倉健の俳優と並んで監督関川秀雄、脚本新藤兼人が読みとれた。“国鉄三十年の歴史の中に生きた鉄道員の生活記録”とキャッチコピーが妙に懐かしい。
駅前の太い道路を青梅街道に左折すると看板街である。
その街道は少し肌寒い秋晴れの中で、ひっそりとしずまりかえっていた。
すぐそばに秋川渓谷が流れているせいか空気までがすんでさわやかなのである。
古い商店の壁に多くの映画看板がかゝり一瞬で時代を遡らせるのであった。大抵は昭和中頃の、映画が全盛だった時代を、街の雰囲気までが再現しているのである。シャッターの降りた店は殆どなく客がまばらなのに頑張っているなと感心するばかりなのだ。
洋画の方が多いのだが代表的名作はやはり人眼をひき一気に青春時代を呼び戻すのである。とりわけヒッチコックの忘れられない映画の中から「北北西に進路を取れ」。
なかんずく主演女優のエヴァ・マリー・セイントは魅力を失わない。ケイリー・グラントは紳士の典型のように上品な仕草で主役をこなすのに較べ、彼女はどこかなぞめいて敵か味方か解らない。スパイめいた役柄が興味津々なのである。この女優が忘れられないのは聡明な感じの額の広さによる。当時から私は半跏思惟(はんかしい)の額と名付けていた。
今でも鮮明におもいだすのは大陸横断特急のコンパートメントでグラントが手を差しのべ彼女を引きあげるシーンである。瞬間の場面展開と何とも鮮やかなショットに忘れられない映画となる。数えあげれば切りがない。プロペラの複葉機で畠の中を追いかけられる場面や大統領の顔が印象的なラシュモア山の逃走シーン。そのどれもが心に刻み込まれて忘れがたいのだ。あのときの大統領の顔は何人覚えているだろう。
資料によれば四人である。それはワシントン、ジェファーソン、リンカーン、ルーズベルトの四人。そのころ私はアメリカに実在してこの壮大なモニュメントがあることを知らなかった。アメリカ本土を旅行する人達も少なかったのである。
ヒッチコックの映画は「裏窓」にしても陰湿な場面は少なく明るく、色調が豊かなのが特徴だ。
それでもヒッチコック・サスペンスは充分に刺激的で息つく暇もないとは、まさにこの事である。金髪の見事なエヴァ・マリー・セイントは美人と言うより知性的と言った方が似合いなのだろうか。この人はいつまでたっても心の中で歳をとらず、いつも謎めいている。
一九五九年監督・製作、アルフレッド・ヒッチコック、出演は他にジェームズ・メイスン。アメリカの作品。
道中は短く、東青梅駅で乗り青梅まで戻って例の「青梅想い出そば」を食してから帰路についたのである。それは青春時代からシニアの世代に再び戻る道でもあった。