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「大変な危機を必死で立ち向かっている経営者の生き様と、その内容が取材を通してリアルに書かれている点が、読む者の心を打つのだと思う。」1月号前篇に寄せられた読者の声です。生き残りをかけて「狂気になる程まで」考えぬき、実行してこられた渡辺会長の“不屈の生き様”もいよいよ佳境(中篇)に入ります。ご一読ください。(この連載は当社阿部相談役が直接顧問先を訪問し、取材した内容をまとめたものです。)
そのひとつに、上海事務所の開設がある。繊維産業の海外生産への移行に対応すべく、2004年(平成16年)上海の営業所を設けた。会長は状況から言えば、このスタートは些か遅かったと言っているが。それに合わせて貿易部を発足させた。現在、海外の外注を使って製品を調達している。
スタートから3年経って、その数量も多くなり、ようやく採算が取れるようになってきた。海外からの調達割合も高くなり、会社全体としての粗利益率も好転してきている。
全社員30名そこそこの小会社が、海外に事務所を開設すること自体、一つの冒険だと思われる。それをやってのけ、しかも成功させる。その判断と実行力のすばらしさに感心させられた。
また、都内の主要百貨店内に期間限定で店を出した。小型の刺繍機械を持ち込み、お客さんの目の前で、お客さんが購入した品物にワッペンの刺繍加工をする。それを20分ほどでお渡しする“ワッペンハウス”という新企画である。百貨店にとっては商品が売れ、お客にも喜ばれ、当社にとってはお客と直に接することで、人々の趣向や流行などが察知できる。昨年に続き、今年もフィーバーして、マスコミ業界紙等で取り上げられた。残念ながら、まだ採算のとれる段階にはなっていない。
さらに、サンリオ、タカラトミーなどに働きかけ、そこのキャラクターと結びつけて販売促進を図る新企画を提案、一部は正式契約の調印間近なものもある。
またワッペンハウスもアジアの諸国に持ち込む計画など事業の進展にかける意気は軒昂である。
「不況の中に埋没するのではなく、また危機の時に引き籠らない。利は客の所に、外にある。常に何かをやっていないと駄目だと考えています」との会長の言葉であった。
『タコ社長ブルース』から次の一編を転載する。
「太い軌跡」タコはポリフォニーに彩られ久遠(くおん)を想わせるバッハのような宇宙空間を
遺(のこ)すことは出来ないそれでも 平成三年からの中小企業の 冬の時代に八割の売り上げ減という大激震の中にあっても決して諦めず既存のお客様の掘り起こしに狂気になるほどまでに打ち込んできた中小企業家の不屈の生き様(ざま)は遺(のこ)せるその くっきりと太い軌跡は遺せるタコはメラメラと燃え立つ生命力に埋められるゴッホのような造形を遺すことは出来ないそれでも 平成三年からの中小企業の 冬の時代に七億もの借入金を抱えても決して諦めずその返済と猶予のための息の抜けぬ金融機関との攻防周到に戦いぬいて来た中小企業家の不屈の生き様は遺せるその くっきりと太い軌跡は遺せるタコはハッと息の止まる抒情詩人のような美しいフレーズを遺すことは出来ないそれでも 平成三年からの中小企業の 冬の時代に社内に黴(かび)のように動揺が深まる中でも決して諦めずあくまで希望を語り続け残された社員達を束ね必死で戦い続けた中小企業家の不屈の生き様は遺せるその くっきりと太い軌跡は遺せる
バブル崩壊に始まる日本経済の低迷は、「失われた20年」と言われている。第一次大戦後、戦争の残酷さの実感から虚無と絶望に陥ったアメリカの文学青年達を呼んだ「失われた世代」をもじったのだろうか。とにかく停滞と陰鬱(いんうつ)な20年であった。
当社はこの不況に加えて銀行の貸しはがし、さらに社長のC型肝炎罹病という三重の苦境の中を、頑張り抜いてきた。しかし、1999年(平成11年)の売上4億円超を境に売上高は下降し、2008年の売上は10年前の6割に、2009年は同年の5割まで落ちた。
そこに、リーマンショックによる世界同時不況の波が重なってきた。
当社はこれに立向うように、それまでの下降路線を反転させようと、2008年2月、社内組織の改革と反転攻勢に出る諸課題を明確にし、その達成目標、各幹部の役割分担等を全社員に明示した。
そして同年11月、2009年の経営基本方針を発表した。その表題は『世界恐慌の時代、意気高く挑む』(動・働きかける・山をも動かす)である。文字どおり㈱パワーの面目を示す表題と感じた。
そのレジュメから内容を見ると、
最初に(一)潰滅的な日本の繊維産業として
①圧倒的な海外生産・輸入浸透率90%以上
②一大消費不況「服が売れない……」
③売場・購買パターン・着こなしの多様化
④曲がり角に来た「SPAアパレル」
⑤繊維工業の実能・刺繍加工業・ニッター縫製業
などの項目を挙げ、詳細に現状分析を行なっている。
続いて、(二)㈱パワーの現在の立ち位置として
①当社の業界内の位置を分析
②「反転攻勢の条件は整った」と、当社の整えてきた戦力を細かに述べている。
③目指すべき新規事業
④今後の構想と無借金経営等が続いている。
しかし、2008年、2009年の決算は過去10年間で最悪の赤字決算となった。全体をあげての努力を上回る客観情勢の厳しさがあった。
翌 2010年、(本社)の経営基本方針では一層の体制強化を図り、反転攻勢の足掛かりのポイントとして、いくつか方針をより明らかにした。目立つものとして、会社規模・社員数の縮小、上海発注量の倍化・独自売り、ワッペンハウスの拡充と採算乗せ、ネーム業界への参入などである。
会社規模・社員数の縮小は採算の合わない得意先は外し、選りすぐりの得意先へと客を絞り込み、希望退職者を補充せずに体制強化を図る。また社内の新体制を確立し、会長・社長の第一線からの退任を準備するなどである。
本年4月に追加した目標には「ユニクロに追いつけ、追い越せ」というのがある。一瞬驚いたが、何も売上高や規模を指しているのではない。ユニクロがあの低価格販売でも生み出している売上利益率と純利益率を目標としている。㈱パワーらしく意欲的で明快である。また従業員を励ますものとして、この12月決算で当社でははじめての決算賞与の支給という項目もある。
このレポート執筆時点の10月では、いくつかの目標は50~80%達成できたという。
反転攻勢の準備は出来上がった。当社が新体制というこの路線に沿って、厳しい状況の下でも着実に前進するものと思われる。