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新春経済セミナー

 

どうなる日本経済、これからの中小企業の活路は!

嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科科長 黒瀬 直宏 氏

 

嘉悦大学大学院ではビジネス創造研究科が去年四月に創設されました。そこでは中小企業の研究教育を中心に据えるという、日本で初めての大学院です。今回は同大学研究科科長 黒瀬直宏様をお招きし開催した2月4日のDDKセミナーの講演録をお届け致します。

 

Ⅰ どうなる日本経済

 「どうなる日本経済、これからの中小企業の活路は」というテーマですが、環境は厳しいと言わざるを得ません。
最近の企業統計調査によると、製造業は1991年から2006年の15年間で3割の企業が消えました。規模別にみると、小さい企業ほど消える率が高くなっています。これは大変なことですが、その割には社会も政府も危機感が希薄です。
 この大きな原因は言うまでもなく、産業空洞化とそれに絡んだ長期不況です。2005年に所得収支の黒字が貿易収支の黒字を上回ってしまいました。所得収支というのは、海外に直接投資をしてそこから利益を得るということですから、今までのように国内で生産した製品を輸出する貿易によってではなく、海外に生産拠点を移転させ、そこで収益を上げているのが分かります。
 海外売上比率が高い大企業ほど、売上の伸び率が回復しているというデータもあることから、産業の空洞化は益々進んでいくのではないかと懸念されます。
 これまでは大企業が投資をして輸出する生産拡大志向が国内の中小企業にも波及し、共に成長する、という産業システムがありましたが、今やそのシステムは完全に無くなってしまい、それどころか、中小企業の分野にまで大企業が入り込むようになってしまいました。
 そうすると中小企業は、仕事を自分で作り出す市場自立型になるしかありません。そこで少し事例を含めながら、いかに仕事を創りだしていくか、その戦略を考えてみたいと思います。

Ⅱ 市場自立型中小企業への戦略

1、事業分野に関する戦略

 どの分野で会社が事業を行うかという戦略は重要です。中国と同じことをやっても負けます。しかし、事業分野の選択によっては、賃金の高い日本でも競争力をもつという例があります。

①需要が高度で作るのが難しい分野
 岡山県井原市でジーンズ用の生地を生産している織物会社があります。その会社はリーバイスの下請けを1970年からやっていました。その地方の繊維産業の厳しさは言うまでも無く、かつて127社あった織物会社は現在では27社しかありません。繊維産業は1987年に輸入と輸出が逆転し、製造業の中でもいち早く競争力が衰え、中国製品に国内市場が占拠された産業です。ところがその織物会社は、従業員18人で年商24億円。一人当たりの売上げが1億3300万円に上ります。
 社長になぜそんなに好調なのかと聞きましたら、「以前は安くて品質の良いものを作っていたら必ず売れると思っていましたが、今や中国で作れるようになりました。そうしたら中国では作れない難しいものを作るしかありません。それで次から次へと新製品を開発していったのです。ジーンズ用にカシミヤ入りの生地、糸むらのある生地、伸び縮みする生地等々。私はファッションには疎いですが、これだけ開発ができるのはお客様のお陰です。私達が作ったものを全国のお客様に着て頂いている。その中に色々なヒントがある。私達はお客様と一緒に歩んでいるのです。」とおっしゃっていました。ここの生地で作ったジーンズは一本8万円もします。最近千円ぐらいのジーンズもありますからかなりの高級品です。

②顧客密着が必要な分野
 次は顧客密着が必要な分野、オーダーメイドの分野です。
 今、製造業が厳しい状況にある中、ある機械製造業の社長は「とても忙しい」と言っていました。そこは油揚げを自動的に作る機械を作っています。今やお豆腐屋さんも機械を使って作っているのですね。昨今は景気が悪く、外食をあまりしなくなったことからそういった機械が売れているそうです。しかしその機械は規格化されたものではなく、お豆腐屋さんの工場が小さいと、それに合わせたオーダーメイドとしています。これは大企業では対応できません。顧客密着は大企業より中小企業の方が有利です。
 ちなみにこの企業の油揚げを作る機械はヨーロッパに輸出されています。日本でしか通用しないのかと思っていても、海外でも十分通用するのです。

③常に開発が必要な分野
 今やモノを売るのではなくて開発能力を売る時代になっています。
 調剤薬局を経営するTさんは、病院のコバンザメのような門前薬局から発想を変えて、薬局の周りに耳鼻科や皮膚科など5件の病院を誘致しました。今ではそこはナイチンゲールストリートと名付けられています。さらにこの方は、介護保険の施行と同時に介護事業にも乗り出し、介護施設や保育施設、病院などを商店街の空き店舗に作り、それが町興しにもなっています。こうして新しいビジネスモデルを開発していったのです。
 常にこうした新しい開発を行っていくことはとても重要です。では、どのようにしたら開発を思いつくのか。そこが一番のポイントです。

2、競争優位に関する戦略:マーケティング

 日本の中小企業は、技術は素晴らしいのですが、大企業から仕事があったおかげでマーケティングが不得意です。ところが、大企業が海外に目を向けるようになると、中小企業の3分の1が消えてしまった。ですから、日本の中小企業が自立化するためには、マーケティングを強化することが絶対的な条件だと思うのです。

(1)マーケティング=つぶやきを聞きとる
 
とある印刷業の社長は常々社員に「個々のお客様に密着しなさい」と言っているそうです。お客様に密着し、現場でどうなっているのか、何を考えているのか、つぶやきを聞き取ることができれば、実際に注文は取れなくても営業の殆どは終わったようなものだ、と。
 では、このつぶやきを聞き取ることにどのような意味があるのか、少し分析してみたいと思います。

①顧客密着
 ダクトなどをつなぐ継ぎ手を作っている宮城県の会社の例です。今までは商社の発注で規格化した製品を作っていたのですが、その商社が潰れてしまい、自ら営業活動をしなければならなくなりました。しかし何をして良いのかわからなかったので、エンドユーザーのところに思いきって飛び込んだところ、今まで気づかなかったニーズが突然見えてきました。エンドユーザーは規格化された製品が使いづらかったので手直しして使っていたのです。それなら初めから現場のニーズにあうように製品を開発したら喜ばれるのではないか。      そうしてニーズに一生懸命対応していくうちにだんだん評判になり、継ぎ手の20%のシェアを占めるようになりました。
 このように個々のお客様と密着し、つぶやきを聞きとることで今まで見えてこなかったニーズが見えてくるのです。

②潜在ニーズの掘り起こし
 個々のニーズに自分では気づかず、他人から指摘されて初めて気づくという場合も多々あります。
 ある冷凍機の専門メーカーの話ですが、鶏の腿肉の骨を自動的に取り出す機械を発明し、「トリダス」と名付けました。これが鶏肉の加工業者の間で大ヒットしましたが、加工業者からの依頼に応じて開発したのではありません。そのメーカーの社員が冷凍機を納めに行った際、鶏肉加工業者の方が人間の手で皮を剥ぎ、肉を割いて骨を取り出しているのを見て大変だなと思い、自主的に開発したのです。
 鶏肉加工業者は昔から手作業に慣れていて、機械で骨を取り出すというニーズに自分では気づかず、他人から指摘されて初めて気づいたのです。
 今の時代、仕事はありませんかと言っても、あるような時代ではありません。提案して、潜在ニーズを掘り起こしていく時代だと思います。
③つぶやいてもらうには
 問題は、お客様につぶやいてもらうにはどうしたら良いかということです。これには二通りあります。ひとつは「トリダス」のようにお客様が声にしなくても潜在ニーズを汲み上げるというもの。これには鋭い問題意識が必要ですが、中々そうはいきません。そこでもう一つ、まず自分が情報を発信するということです。

④顧客との双方向関係の形成
 これは大阪のメッキ業者の例ですが、営業担当者は営業に行く時に、お客様が関心のありそうな情報を必ず持っていくそうです。新聞の小さな囲み記事でもいい。そうしていくうちに、お客様の方から話しかけられ、それがきっかけで仕事のつぶやきが聞けるようになる。このように常にお客様との間に情報のやりとりで結ばれる双方向の関係を築き上げると、耳よりのつぶやきがお客様の方からもたらされます。

⑤市場の編集
 「市場の編集」という考え方も重要です。商品開発に次々と成功する、というのはそう簡単なことではありません。市場は既成の商品だけでなく、顧客ターゲット、売り方、地域の組み合わせでできています。商品は同じでも、これらを組み合わせることによって全く新しい市場を作り出すことができます。
 この例では今は当たり前になりましたが、花束の通信販売があります。開発した会社の社長にどうしてそれを思いついたのかと聞くと、花屋に男性客を取り込もうとしたが、男性はそもそも花の名前が分からない。たまには愛する妻の誕生日に花束をあげたいとは思っても、花束を抱えて帰るのが気恥ずかしくて嫌がる。それならば、と通信販売でバラ百本の花束を発売したところ、大評判となった。
 これは「花」という同じ商品を売り方を通信販売にすることによって全く別の新しい市場ができた例です。

(2)技術開発力

①中小企業の技術力
 次は中小企業の技術力に注目します。
 缶の絵がありますが、これは東京・大田区の谷啓製作所さんの開発した、缶を開けるときに指を怪我しないプルトップ缶です。
ここの社長がPL法制定時に新聞で、アメリカのピアニストが缶で指を切って演奏会ができなくなり、多額の賠償金を要求したという記事を読みました。それなら指の切れないプルトップ缶を開発しようと五年間工場にこもり、試行錯誤の結果ようやく完成し、特許を取ったものです。なんとこの技術、東京大学の研究室に日本の製缶メーカー等が15億円のお金を出して開発を委託したが、研究室はギブアップした技術なのです。町工場が日本の大手企業と国立大学の連合軍に勝ったのです。

②豊かな発想力
 これとは裏腹ですが、優れた技術をもっている専門家揃いの会社だろうと思って訪問するとそうではない場合があります。
 私の友人が社長をしている歯磨き粉の製造会社で、「芸能人は歯が命」というCMのアパガードで有名な会社があります。アパガードはハイドロキシアパタイトという人間の骨と同じ成分でできており、歯を削るのではなく、再石灰化させることによって白くします。彼がその原理を思いついたのは、世界中では歯を磨かない民族がたくさんいるはずだが、みんなが虫歯になっているかというとそうではない。これは唾液の中に含まれているハイドロキシアパタイトが歯を再石灰化して虫歯を予防しているからではないか、と予想するのです。それを歯の専門家に言っても笑って取り合ってくれない。ようやくある学者が興味を示してくれて、臨床試験を重ね、やっとのことで発売に至ったのです。彼が思いついてから十数年経っています。
 しかし、彼が化学の専門家かというとそうではありません。専門家であったら逆に定説にとらわれて開発できなかったが、素人であったからこそ自由な発想で作り上げることができたのです。

(3)キーワードは場面情報
 大切なのはその場その場で発生する「場面情報」からデータを読み取ることです。
 ある印刷業の会社は海外雑誌に載せる広告の印刷で相当な利益を得ていました。あるとき社長がアメリカに行ってみると、日本企業の広告が街中に溢れていました。彼はそれを見て、海外雑誌の広告は終わりだ、内需転換だと感じて、日本に帰って社員にこれを告げました。翌年(1985年)、プラザ合意で一挙にみんな内需転換に動きます。ここの会社はもう準備を進めていたので、一円も売上げを落とさず、内需転換に成功しました。
 アメリカで溢れる日本企業の広告という「場面情報」から、これだけ日本企業が進出していると反日感情が激しくなるのではないか、という彼の問題意識が反応することによって、自社の経営危機を表すデータに転換したのです。
 文書化したデータは既に誰かが知っている二番手のものですが、その場で発生した場面情報は一番新しい情報です。
大阪のある経営者の言葉ですが、「新聞は実に重要で私も一生懸命読む。ただ新聞からわかることは基本的な傾向だけだ。新聞に書いてあることと同じことをやってももう遅い。だから新聞にはやっていけないことが書いてある」、と。
 今や人気のボジョレ・ヌーボーですが、1970年代にそれをデパートで並べても、消費者は見向きもしませんでした。消費者はワインとは赤玉ポートワインのような甘いものだと思っていたのです。基本的な傾向と離れたことをやると、いくら新しくても売れないのです。ある程度基本傾向を知って、且つまだ誰も気づいていないことをやる、これが経営にとっては一番重要なのです。

終わりに

 私の今日話したことは机上の空論ではなく、実践して現実に市場を創造しています。そういう中小企業はみんな天才的な経営者や従業員ばかりかというとそうではない。むしろ中小企業ならではの自由な見方で市場創造に成功しているのです。これからの中小企業の活路を見出すために、最後にこれを強調して今日の報告を終わります。ご清聴ありがとうございました。