21 会社訪問
インタビュー
富士インキ製造株式会社
代表取締役社長 中村 弘樹 様
今、変化のとき
老舗メーカーの
未来戦略

富士インキ製造株式会社は、紙袋などの包装資材向けインキを手掛けるメーカーです。小麦粉や米などを入れる重袋から、百貨店のショッピングバッグまで、暮らしを支える製品に関わってきました。37歳で代表取締役に就任した中村社長は、会社を再建し、培ってきた技術を活かした新たな挑戦にも取り組んでいます。その歩みと、次世代へ繋ぐものづくりへの思いを伺いました。

暮らしを支える紙袋のインキ
用途に合わせて機能をつくる技術

弊社は、紙袋など包装資材向けのインキを中心に製造している会社です。「インキ」と聞くと新聞や雑誌を思い浮かべる方も多いと思いますが、弊社が得意としているのは産業用インキです。代表的なものに、小麦粉や米、セメントなど重量物を運ぶ重袋(じゅうたい)や、百貨店などのショッピングバッグに使われる角底(かくぞこ)(紙袋)向けのインキがあります。
重袋では積み重ねた際に荷崩れしない滑りにくさが求められ、ショッピングバッグでは衣服などへ色移りしないことが重要です。「滑らないこと」と「色落ちしないこと」という相反する性能を、用途に合わせて調整することが私たちの技術です。

お客様の求める色を再現する
富士インキの強み「色合わせ」

もうひとつ、弊社の大きな強みが「色合わせ」の技術です。インキは作れば完成というものではありません。同じ色でも、印刷する紙の種類や表面加工、印刷環境によって仕上がりは変わります。そのため弊社では、お客様から指定された色見本をもとに、紙の特性や用途に合わせて細かな調整を行っています。必要に応じてお客様の印刷現場まで伺い、その場で調整することもあります。こうした現場対応力も、弊社が長年培ってきた強みです。
単に色を作るのではなく、お客様が求める仕上がりを実現する。その経験と技術の積み重ねが富士インキの強みとなっています。今後は、この「色合わせ」の技術そのものを新たな事業へ展開できないかと考えています。

富士インキ製造株式会社代表取締役社長中村弘樹様

経理担当として入社
会社再建から始まった経営者への道

私はもともと経済学者を目指して大学院で学んでいましたが、30歳の頃、経理担当として弊社に入社しました。ですから、当初から経営者になるつもりだった わけではありません。大きな転機になったのはリーマンショックです。会社の経営環境が悪化し、再建に取り組まなければならない状況になりました。
私は経理担当として再建プロジェクトに加わり、大学院で培った分析力を活かして再建計画の立案と実行に携わりました。会社を残すために奔走するうちに、周囲から「中村がやればいい」という声が集まり、37歳で代表取締役に就任し、現在に至ります。
ただ、社長になってすぐに新しいことへ挑戦できたわけではありません。最初の10年間は守りの経営です。会社を安定させることを何よりも優先しました。

特許を取得!
インキの技術で社会課題に挑む匂い付きインキ「ハンセル」

会社が安定してきた頃から、次の時代を見据えた新しい事業を考えるようになりました。弊社の主力であるインキ事業は、大きな変化が起こりにくい業界です。だからこそ将来の選択肢を広げるため、富士インキの技術を生かして何ができるのかを考え、社員や社外の方からアイデアを募りました。その中から生まれたのが、匂い付きインキの技術を応用した「ハンセル」です。開発の背景には、高齢者の徘徊や山での遭難時における捜索の難しさがありました。千葉県や神奈川県では、警察犬が年間数百回出動するなど、行方不明者の捜索は身近な社会問題となっています。GPSなど便利な機器もありますが、充電切れや持ち忘れという弱点があります。そこで考えたのが、本人が何かを持つのではなく、自然に手がかりを残せる仕組みです。玄関などに専用シートを設置すると、外出時に足元へ特殊な成分が付着し、歩いた場所に色と匂いの痕跡を残します。その匂いを警察犬がたどることで、行方不明者の捜索につなげることができます。機器の操作や充電は不要で、日常生活の中で自然に備えられることが「ハンセル」の特徴です。この塗料の成分は今年、特許を取得しました。

ハンセル

次世代へつなぐ強い会社へ
4つの柱で未来への道をつくる

これから目指しているのは、ひとつの事業だけに依存しない会社づくりです。長年培ってきたインキ事業を土台としながら、複数の新しい柱を育てていきたいと考えています。ひとつは「ハンセル」のような新製品開発です。さらに、排水処理装置や防錆剤などを扱う代理店事業、他社製品の製造を請け負うOEM 事業にも取り組んでいます。自社製造にこだわらず、技術力とお客様とのつながりを活かして、新たな可能性を広げていきたいと思っています。
私自身、定年まで残された時間はあと10年ほどです。その間にさまざまな挑戦を重ね、富士インキの未来につながる事業を育てていきたいと考えています。インキ事業、新製品開発、代理店事業、OEM。この4つの柱を育てることで、時代の変化にも対応できる強い会社をつくり、次の世代へ引き継いでいきたいと思っています。

色の調合
研究室では顧客からの見本色に合わせた微細な色の調合が行われます
油性インキ製造
油性インキ製造の様子。現在では水性インキが主流のため油性インキを製造する会社はほとんどないとか
自動ディスペンシングシステム
水性インキ製造のための自動ディスペンシングシステム
排水処理装置
工場から排出される水の環境に対する影響を低減する排水処理装置は、代理店事業として展開している
富士インキ製造株式会社

紙袋などの包装資材向けインキを手掛けるメーカー

埼玉県比企郡滑川町大字都25番地48
http://www.fuji-ink.co.jp/